革靴の寿命 | Room Style Store

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2023/05/16 16:44


革靴の寿命を調べてみると2~6年、靴底の張り替えが可能なグッドイヤー製法の本格靴だと10年が目安らしい。もし手元に3足の革靴があれば週5日を交互に履いて中3日の登板。履く間隔を空けば寿命は更に延びるという。昔リーガルの広告を飾った30年もののウィングチップは具体的な目安になるだろう。

ただし靴底の張り替えは2~3回が限度とか。底を縫い留めるコバ(ウェルト)が先にヘタるためらしい。尤も本格靴はそのウェルトも交換可能、リウェルトすれば再びソール交換しながら30年以上履くことも期待できる。となると問題になるのは張り替えができない靴の上部(アッパー)ということになってくる。

そこで今回は1990年代に履いてきた本格靴が30年の節目を迎える中、「靴の寿命度」を判定しつつそれぞれの靴にまつわる思い出を書いてみようと思う。

※扉は90年代の靴達

〈揃い踏み〉
80〜90年代に集めた靴の一部。老舗セレクトショップのビームスとシップスや専門店ロイドなど国内は勿論ロンドンやパリ、ミラノ、返還前の香港など街の靴屋に立ち寄っては土産代わりに何足も持ち帰った…多分雑誌ブルータスの「靴だけは外国製それも英国に限る」の見出しが効いたのだろう。英国靴の爆増ぶりが写真からも伝わると思う。

【1986年製Alden】
(1) ブルックス別注オールデン
購入したのは1990年、NYのブルックスブラザーズの本店だったが買ってから既に33年が経過。途中で革底にラバーを貼っているのでソール交換は一切なしだがヒールは何回か交換してきた。靴の履き口(トップライン)は流石に擦れており歴戦を物語る。とはいえ見た目は30年を経過したとは思えない。

(2) クラック
製造番号は6Kだから1986年の11月。なんと購入より4年も前に作られた37年ものと判明。なぜ長期間売れなかったのか?アメリカはDウィズが標準、幅広のEウィズゆえ売れ残ったか…その間に乾燥が進み購入時に気付かずケアをし忘れたせいかアッパーの両足外側にクラックが入っている…反省しきり。

(3) 履いてみる
椅子に座って足を組んでもそれほどクラックが目立たないのでまだまだ履ける。とはいえこの先クラックが大きくなってきたらチャールズパッチのように当て革をしなくてはならない。手持ちの本格靴の中でリーガル、ウェストンと並んで一番古いだけに寿命が来るまで手を施そうと考えている。
《靴の寿命度》
製造後37年経過:Dランク

【1990年製Edward Green】
(4) Dover(マスターロイド)
ドーバーといえばヒュームドオークタンのアッパーを思い浮かべるのが古参の靴好き。1990年青山のロイド(閉店)で48,000円という驚きの定価で購入したこの靴も既に33年選手。その間に元祖エドワードグリーンのドーバーは何と20万円超えになってしまった。染みは多少あるものの一線級の面持ちだ。

(5) ステッチ切れと擦れ
ところがよく見るとライトアングルモカの糸切れが両足で起きている。履き皺に沿っているので屈曲が原因だろう。黎明期のユニオンワークスで補強したが「対処法なのでまた切れるだろう」と言われた。その後は綻びが広がる様子もなく履き続けている。トップラインはかなり擦れているが踵の内張りは比較的綺麗だ。
《靴の寿命度》
製造後32年経過:Bランク

【1991年製Church’s】
(6) Fairfield(フェアフィールド)
1991年に初代ビームスFで買ったチャーチズの別注品。購入時はクレープソールだったがコバのべたつきや地面のごみが付いた真っ黒な靴底が嫌で登板回数が減少。お陰でアッパーの寿命が伸びたようだ。柔らかなスエードはひび割れこそないもののトップラインには亀裂が出てきている。

(7) ソール交換
購入後染みが付いて丸洗いした結果スエードは毛羽立ち気味。25年ほど経った時点で馴染みの靴修理屋に持ちこみクレープソールからリッジウェイに替えている。アッパーの柔らかさを考えたらダイナイトの方が良かったかもしれない。それでもコバ周りがすっきりしているので最近は秋冬限定でよく履いている。

(8) 履いてみる
スエードの靴は雨染みが出来やすい。対処法としては水気を含んだスポンジタオルで全体を濡らしたら風通しの良い日陰で乾かすと消えるようだ。とはいえ毎回上手くいくとは限らない。靴の表面にある埃が染みの部分で固まるのか乾燥後も雨の跡が残ることもある。仕方なく靴の丸洗いしたが色抜けするので痛し痒しだ。
《靴の寿命度》
購入後32年経過:Cランク

【参考資料①】
当時のチャーチスカタログより
1991年のチャーチスカタログより。純正のフェアフィールド(靴の名)は81番ラストでクレープソールのダークブラウンスエード。これをビームスFでは73番ラストでタバコスェードという通好みの仕様に変えて店頭に並べていた。ユナイテッドアローズが産声を上げたこの年、どのセレクトショップにもワクワクするような商品が並んでいた。

【1992年製Church’s】
(9) Chetwynd(チェットウインド)
1992年の年明け、ロンドンはバーリントンアーケードのチャーチズブティックで買ったチェットウィンド。フィッターの勧めでFウィズを選んだが「皺に嚙まれる」事態が頻発。原因は足の甲とアッパーの間の隙間で深い皺が出来て足の甲を摘むためらしい。おかげで履く機会が減ったせいか今もクラックや亀裂はない。

(10) インソック
甲下の深い皺はクラックが近づいている雰囲気…保革用クリームとブラシで応急処置。トップラインは擦れもなく踵の内張りも良好だが流石にインソックのロゴは剥げている。余談だが当時チャーチズ代理店だった大塚製靴はインソックをライニングと同じ金茶で展開していたが本国はアッパーと同じ色だった。

(11) 履いてみる
ジムでのトレーニング効果か歳のせいか足の肉付きが変わったようで久々に履いたら「皺に噛み付かれる」感じがなくなっていた。尤も黒靴を履く機会が減ってるので出番は中々来ないだろう。最近値上げしたチャーチズの公式ストアを覗いたらチェットウィンドは茶のみ。しかも値段は17万円越えでびっくりした。
《靴の寿命度》
購入後31年経過:Bランク

【1992年製Edward Green】
(12) Windermere(ウインダミア)
(9)のチェットウィンドを購入後、同じバーリントンアーケードの何軒か先にあるエドワードグリーンで購入した外羽根のプレーントウ。肉厚のグレインカーフは今も弾力があり磨くと光る。良い革はクラックが起きにくいといわれるが、エドワードグリーンのカントリーカーフは1足持っておくべき素材だと思う。

(13) 旧グリーン最終期
当時のインソックは筆記体のロゴになりソールの刻印も同様にブロック体から筆記体になっていた。とはいえ未だエルメス買収前のこと。パリのオールドイングランドやロンドンのニュー&リングウッドなど様々なショップがエドワードグリーンの別注ものをラインナップしていたことを思い出す。
《靴の寿命度》
購入後31年経過:Aランク

【1993年製Edward Green】
(14) Chelsea(マスターロイド)
1993年、ラルフローレン銀座店(閉店)でタキシードを購入。ついでに同じ銀座のロイドフットウェアでエドワードグリーンのストレートチップを買った。名前はチェルシー、当時ロイドはエドワードグリーン別注ものを扱っていたがエルメスの買収話と時を同じくして注文し辛くなりマスターロイドはクロケットに切り替わったと聞いている。

(15) 履き口の亀裂
チェルシーの履き口はアッパーを折り曲げてライニングと縫い合わせる「折りこみ」タイプ。カドガンなど他のモデルがライニングとアッパーの間にテープを挟んで縫う「たまぶち」なのに対して強度が弱かったせいかそれとも出番が少なく(フォーマルなので)乾燥しがちだったせいか…亀裂が生じてしまった。

(16) 履いてみる
結婚式の仲人などモーニングコートを着る場面では必需品のストレートチップ。フォーマルな縞柄スラックスは前裾を1.5㎝ほど上げたシルエットの所謂「モーニングカット」がお約束…おかげで靴のトップラインも隠れて見えない。靴の寿命はまだ有りそうだがつま先の減りを修理するのが先か…。
《靴の寿命度》
購入後30年経過:Eランク

【1994年製JOHN LOBB Paris】
(17) LOPEZ(ロペス)
1995年正月にNYのエルメスブティックで購入。当然製造は1994年なので29年もののロペスということになる。ちょうどこの頃エドワードグリーンの工場を買収したのがエルメス傘下のジョンロブ。とはいえまだ自社工場製の靴は出回っておらず、写真の靴はクロケット&ジョーンズのOEMになる。

(18) クラック
当時はパリ表記のあったジョンロブパリ。クロケット別注と自社工場製の最大の違いはソールにあり。クロケットの方が硬くて靴底を曲げにくい分アッパーへの負担が大きい。頻繁に履いたせいか皺に沿ってクラックが入り始めている。靴の寿命は革の良し悪しもあるが全体のバランスも関係していそうだ。
《靴の寿命度》
購入後29年経過:Dランク

【1994年製Church’s】
(19) Diplomat(ディプロマット)
こちらも(17)のロペスと同じ日にNYのチャーチズブティックで購入したディプロマット。(9)のチェットウィンドで「革の噛み付き」に凝りていたのでFウィズから一つ下げてEウィズを購入。おかげで噛み付きはなくなったが履く頻度が増えて後から買ったのにチェットウィンドより傷むのも早かった。

(20) クラック
3都市時代のチャーチズ。利き足が左ということもあってアッパーに余計な力が掛かるせいかキャップの付け根やレースステイ根元にクラックが入り始めている。トップラインの擦れからよく履いたことが如実に分かる。幸い(14)のチェルシーのようにトップラインの裂けはないのでまだまだ現役で履けそうだ。
《靴の寿命度》
購入後29年経過:Cランク

【1994年製Crockett&Jones】
(21) OPERA(オペラパンプス)
海外駐在が決まって急遽購入したオペラパンプス。シップス別注はクロケットジョーンズのカーフ版だが本式はパテントレザーだとか。理由は「靴墨で磨いた靴だと女性のドレスを汚す恐れがあるから」らしい。ソーシャルダンスの場面ならばそんなことも有り得ようが踊りには全く縁がないので良しとした…。

(22) 一文字かパンプスか
夜の準礼装(セミフォーマル)にどんな靴を合わせるか。ピークドラペルのディナージャケット(英国風)ならストレートチップだがショールカラーのタキシードにはラルフ推奨のオペラパンプスがしっくりくる。履く回数と履く場所が限られるのでアッパーへの負担も少なくオペラパンプスの状態は購入時とほぼ変わらない。
《靴の寿命度》
購入後29年経過:Aランク

【1995年JOHN LOBB Paris】
(23) Seymour(セイムール)
こちらは最初期の自社工場製、1995年製造のセイムールだ。当時のジョンロブパリは良い革を使っていたとよく聞く。確かに見た目が今とはかなり違う。既に28年経過したが履く頻度が多いため途中でラバーを貼って交換したりメタルトゥチップを装着したりヒール交換したり色々手をかけている。

(24) 旧グリーンのファクトリー
エドワードグリーンの名ラスト#202の所有権は裁判でエルメスに移りジョンロブパリはラスト#8695を生み出した。写真からアッパーのモッチリが分かるだろうか。よく履いて丁寧にケアしてきたので状態はかなり良い。こちらのインソックもパリの表記入り。この時代のデッドものがあれば買ってみたい気もする。
《靴の寿命度》
購入後28年経過:AないしBランク

靴の寿命というタイトルからも分かるように今回はグッドイヤー式本格靴の寿命を調べてみたが回答は見つからず…。靴底が交換不可能になったらという目安を掲げる説もあったが冒頭で述べたようにウェルトを交換すればリセットできる。従ってある程度靴が揃えば生涯履き続けることも可能だろう。

3足で週5日を履き回すとして3の倍数毎に靴を増やせばここで紹介したオペラパンプスのように新鮮な状態を保つのさえ夢じゃないはず。ところが実際は靴が増えると別の問題が出てくる。それが靴のメンテナンスだ。少ないうちは目が行き届いていたのに増えるに従ってケアしきれなくなってしまう。

それを知ってか古い靴仲間から「自分の靴を誰かに引き継いでもらうべく買取業者に出した」と聞いた。なるほど託すのも妙手だが今回のように寿命の近い靴は託しようもない。せめて天寿を全うさせるのが靴愛好家の務めと肝に銘じている。

By Jun@room Style Store