靴の受注会@名古屋 | Room Style Store

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2023/05/29 08:19


ローマで靴をオーダーして以来、靴職人吉本晴一さんの作る靴の素晴らしさを密かにお洒落好きが集うという名古屋の皆さんに紹介してみたいと@オボイストさんに連絡したのが一年半前。オボイストさんも吉本さんの靴に興味津々だったようで「どうせならコラボで受注会はどう?」と急遽話がまとまった。

その後は吉本さんやオボイストさんと日程や参加者、会場準備を進めて初の受注会を開催したのが昨年の4月11日。早いものであれからもう1年が経つ。ここで前回注文分の仮縫いに合わせて受注会の案内を出したところ新規のお客様が集まるなど評判は上々。満を持して第2回受注会を再び名古屋で開催した。

そこで今回はローマの靴職人吉本晴一さんを招いて開催した第2回ペルティコーネ受注会の様子を紹介してみたい。

※扉写真は会場となった名古屋ヒルトンホテル

(1) 東京駅
前回同様早朝の新幹線に乗るべくラッシュ前の通勤電車で東京駅へ。洗車の済んだ編成だろうか、朝日を浴びて光り輝くN700系が入線、定刻に発車した。この日は正に五月晴れ、進行方向右手に富士山が見えてくると写真を撮るお客さんもいる。左側の席を選んだので残念ながら拝めず…次回は右側の席を取ろう。

(2) 会場に向かう
ヒルトン名古屋に到着、カウンターでルームキーを受け取りエレベーターで部屋へ。思い返せば初トランクショウ参加は34年前、1989年春のクレバリーだった。客として参加したが帝国ホテルのエレベーターに乗ると妙に緊張したことを思い出す。時は流れて今回は主催者、お客様には寛いでいただきたい。

(3) サンプルシューズ(その1)
吉本さんの特大トランクからサンプルシューズを出してベッドに並べていく。左端は肉厚で光沢のある革のようだ。中央は新作だろうか、柔らかそうでマットな質感のシボ革が目を引く。右端はきめ細かなネイビーカーフ、吉本さんお得意のローファーサンプルを中心に順番をあれこれ考えるのも楽しい。

(4) サンプルシューズ(その2)
こちらもローファーのサンプルが並ぶ。中央のボウタッセルはクレバリーでも人気のタイプ。長年アウトワーカーとしてクレバリーに関わってきただけにサンプルも格好いい。一方左端のシンプルなタイプはまるでジョンロブロンドンのよう。クラシックなデザインのサンプルも抜かりなく揃えている。

(5) サンプルシューズ(その3)
こちらも前面にローファーを並べている。中央のストラップローファーはコバが見えないフルブラインドウェルト仕様。オペラパンプスとは作りが違うもののフォーマル向きとのこと。仕上げるには「手間がかかる」ようだ。右端のアリゲーターローファーは手持ちのクレバリーとよく似ている。

(6) ペルティコーネとクレバリー
左はペルティコーネのネイビーワニ革ローファー、右がクレバリーのバーガンディワニ革ローファー。吉本さんは摘みモカで仕上げているようだがクレバリーは合わせモカと多少雰囲気の違いはある。とはいえつま先のシェイプやエプロンのサイズ、両サイドとエプロンの斑を揃えるなど共通点も多い。

(7) 新作(その1)
こちらはラマ(牛革)ヌバックを使ったバックルローファー。ピッチの細かなモカステッチに加え手仕事のバックルが目を惹く。素材は真鍮と純銀の2種類あって仕上げも鏡面仕上げと目打ちから選べる。2万円の料金アップ分は全てイタリアの金具職人に渡されるそうだ。ローマでの繋がりを大切にする吉本さんらしい。

(8) 新作(その2)
こちらは肉厚なカーフのようにも見えるが素材はコードバン。見本ということで日本の新喜皮革のものを使ったそうだがホーウィンのコードバンも用意できるという。ただしアップチャージは15万円…かなりの値段だ。ドル高の今、ホーウィンのシェルコードバンよりイタリアのコードバンを使うのもありか…。

(9) 誂えのコードバン靴
こちらはそのホーウィンコードバンを使ったクレバリーのボウタッセル…アップチャージ料金は殆ど気にならない程度だったと思う。18世紀の沈没船から引き上げた幻の革ロシアンレインディアは現在プレミア価格だがそれとて10年前は数万円の上乗せで済んでいた。素材に拘るなら価格高騰前のオーダーをお勧めする

(10) お客様の仮縫い靴
前回の受注会で注文したお客様の仮縫い靴は見事にスリッポンタイプばかり。当Room Style Storeとオボイストさんの好みが反映されたような注文だった。ところが今回新規に受注されたお客様は紐靴やブーツなど一気にバラエティが広がってきている。製作者の吉本さんからは「気合が入ります」と嬉しい返事が…。

(11) 仮縫いの様子(その1)
最初のお客様はチンギアーレのレイジーマン。「つま先や踵の収まりを見る」ため仮縫い靴をカットする様子に驚いていた。フィッテング用とはいえ出来栄えは中々のもの。靴底を整えれば十分履けるのにカットするなんて…と思う人も多いはず。写真は当たる部分を触りながら「きつくないか」確認しているところ。

(12) 仮縫いの様子(その2)
つま先に続いて踵部分のチェック。一度カットしてしまうと「テンションが変わるのでフィッティングは参考にならない」そうだが踵は履き心地に直結する重要な部分、何度もチェックしつつ「チンギアーレの革は思ったよりも硬く感じませんか?」と素材と足の相性を聞き取っていた。

(13) チンギアーレの靴
こちらがチンギアーレ(ピッグスキン)の靴。最初は確かに硬いが思ったより足に馴染むのも早い。皺の入り具合から「意外と柔らかそう」に見えるのではないだろうか。ローファーとレイジーマンではフィット感が違うとはいえチンギアーレの靴を履いていた体験談でお客様との会話が自然と弾む。

(14) オボイストモデル(その1)
こちらは共催者オボイストさんの仮縫い靴。ベージュに近い柔らかな色合いの革はなんとキャメル(らくだ)。キャメルヘアのポロコートをそのまま靴にしたような温もりが靴にある。素材にこだわるオボイストさんらしくヴァンプ部分に近似色のスェードを当てるなどツイストの効いた靴に仕上がりそうだ。

(15) オボイストモデル(その2)
本番の靴はスエードのエプロン部分にモカステッチが入る。吉本さんから「ステッチの色は?」と聞かれてひとしきり談義…結論は「ナチュラルのモカステッチに出し縫いも生成り色、コバは明るめで」と夏にピッタリなローファーになりそうだ。このあたりのやりとりこそビスポークの醍醐味。

(16) オボイストモデル(その3)
フィッティング最中に①タンの形をもう少し甲に沿った形に微調整すること②甲部分に小窓を開けるという2点を確認。仮縫い靴に直接書き込んでいく。細かなことだが窓の形も半円かオーバルかなど一つ一つ確認していく。欧州の誂え靴屋だとハウススタイルで仕上げがちだが丁寧に聞き取るのがペルティコーネの流儀だ。

(17) 採寸(その1)
午後は新規のお客様の採寸からスタート。初オーダーながら最近ラインナップに加わったブーツの見本に一目惚れ…他のデザインを見つつも初志貫徹して長靴の注文と相成った。吉本さん曰く「フィッティングによっては仮縫いを2回行います」と万全を期すもよう。それを聞いて注文主も安心したと思う。

(18) 採寸(その2)
足にテープや基準点を貼りながら座った状態で採寸を終えると次は立った状態でオーダーシートの裏面に立ち、計測値を書き込んでいく。一連の流れはとてもシステマチック、オーダーシートを見れば一人一人の顧客の足がよく分かる仕組みになっている。この後フットプリントを取って触診。1時間半かけた採寸は無事終了。

(19) クレバリー
@オボイストさんのブログから写真を拝借。この日は吉本さんがアウトワーカー時代に仕事を受けていたクレバリーの靴で接客。今はジョンロブロンドンに移籍した木型職人ティームの作だ。因みに吉本さんがロンドンのクレバリーを訪問した際、暫くティームの家に世話になったとか…縁とは不思議なものだ。

(20) トランクショウを終えて
受注会終了後は吉本さんを囲んで夕食会。名古屋名物「味噌煮込みうどん」にトライ。店員による説明を聞き逃したもののオボイストさんの実演で納得。写真のように鍋の蓋を皿代わりに食べるそうだ。うどんはうわさどおり硬めのゆで加減だが濃厚なコクや酸味、渋みのある八丁味噌とよく合う。

(21) 帰路
食後は早めに名古屋駅に向かう。夜の新幹線ホームはとても賑やか、ホームで待つ間ものぞみやこだまがひっきりなしにやってくる。しかもどの列車も出発はオンタイム。インバウンド客が日本の鉄道の正確さに驚くのも納得だ。因みに乗った列車が定時に東京駅に着いたことは言うまでもない。

吉本さんの作るペルティコーネはローマやパリ、ニューヨークでも受注を取るなど順調。注文数も増えて今や仮縫いに1年、納品まで2年はかかるという。「順風満帆ですね。」と尋ねたら「有難いことですがその分納期が遅れてお客様を待たせるのが申し訳なくて。」と苦しい胸の内を明かしてくれた。

国内の靴職人さんの中には納期が4年というところもあると聞く。アウトワーカーによる分業体制が構築されている英国と違って日本の誂え靴業界はまだまだ道半ば…製甲職人やシューツリー職人も出てきているとはいえ吉本さんのように注文から仮縫い、製作や納品まで全て一人でこなす場合も多い。

ふとドラえもんの分身ハンマーを思い出した。忙しい時に使うと分身が現れて複数の作業を同時に進めてくれる夢の道具だ。もしあったら多忙な日本の靴職人もさぞ助かることだろう。

By Jun@Room Style Store