モディファイドオールデン(上巻) | Room Style Store

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2023/08/28 04:42


久しぶりのモディファイドラストオールデンがパリから我が家へやってきた。先代のヤコブソンVチップカーフを人に譲って以来実に35年ぶりだろうか…その間、真に足にフィットする靴を求めて手縫い注文靴にもトライしたが、きつくて履けなかったり踵が抜けたりというエラーがあった。


一方手縫いとは対極の機械仕上げ、時に作りの粗さが目立つオールデンだが長いブランクを経てなおモディファイドラストの足に優しいフィットは健在だった。注文靴と既成靴は「次元が違う」と比較の無意味さを指摘するファッション誌も有るが注文靴を凌ぐ既成靴が存在しない根拠もない。

そこで今回は至福の履き心地モディファイドオールデンを紹介しようと思う。

※扉写真はアナトミカのモディファイドオールデン

《ブーツ》
(1) プレーントウ
まずはブーツの紹介。同じモディファイドラストのプレーントウブーツが買えるアナトミカとラコタだがアナトミカは全てアイレットでラコタが上4列フック仕様。ショップ別注はそれぞれ微妙に異なる。箱の型番M2406も固有で「同じ型が欲しい」とオールデン社に聞いても「アナトミカて買え」と言われるらしい。

(2) プレーンなつま先
この角度から撮影するとギュッと絞られたアーチが良くわかる。反対につま先や踵はゆとりがありそうだ。底から見ると歪なひょうたん型だがCウィズのせいか意外にスマート。アナトミカの店員も「ミリタリーっぽくて良いですよね、同じタイプの黒を夏以外殆ど履いてます」とお気に入りのようだ。

(3) シガーコードバン
目下オールデンのカラバリは2色、レアカラーはまず見かけない。ところがアナトミカにはシガーコードバンの在庫が有る。ただしサイズ欠けやオールデン社の「国外輸出はご法度」の通達もあってかパリに知人がいるなら頼むか、直接アナトミカのパリ店に出向くしか手に入れる方法はない。

(4) MTOしたレアコードバン靴
こちらは昔オールデンサンフランシスコがMTOを受けていた頃オーダーしたサドルシューズ。バリーラストでウイスキーコードバンにプランテーションクレープソールという当時どこにもないモデルをあれこれ考えて注文したものだ。その後人手に渡ったが今ならかなりのレアもの扱いだろう。

(5) ホーウィンスタンプ
シャフト内側のホーウィンスタンプ。左右にあるので「当たり」だ。それよりスタンプ有り=アンラインド(一枚革)のシャフトというのがポイント。殆どのブーツがライニング有りのオールデンにあって履き心地重視のアナトミカはモディファイドラストと好相性のアンラインドを採用している。

(6) ベローズタン
アンラインドのシャフトとセットのベローズタン。ライニングなしの快適なシャフトと柔らかなタンを蛇腹折りにして足首を優しく包む。タンがコードバン素材じゃないなんて素材の節約か?と心配する必要はない。「強烈なまでにフィッテングを追求する」アナトミカらしいこだわりの一部だ。

(7) シリアルナンバー
製造番号最初の2文字は2K、2022年の11月製造を意味する。なんと昨年にレアなシガーコードバン靴が作られていたという驚きの事実。今や通常のコードバンで納期が3年、レアコードバンなら運よく革の在庫があったとしても納期が「4~5年では?」とは店員さんの弁。となると発注したのは2017年あたりか…。

(8) ソール
裏側から見たひょうたん型の靴底。内振りのバナナラストが良く分かる。 9-Cのサイズだともっとスマートな靴を想像しがちだが細身なのはあくまでウエスト部分だけだ。ウォーターロックソールは柔らかいので「トウスチール要らず」という声も聞く。履き心地重視のモディファイドラストとの相性も抜群に違いない。

(9) 靴のサイド(左側から)
ヒールキャップとスロートラインは共にダブルステッチ。短靴部分はライニングや芯で足を支え長靴部分はアンラインドで柔らかく足を包む。硬軟上手く組み合わせた作りだ。フィッティング重視のアナトミカでは他にもスエードチャッカやバックルローファーなどアンラインド仕様のモデルが意外と多い。

(10) 靴のサイド(右側から)
オールデンのコードバン靴にありがちな左右の色の差だが、同じホーウィン社のコードバンを使うクロケット&ジョーンズでも左右差が結構ある。新着ブーツは差が殆どないので「当たり」だが見た目は昔より濃い。顔料使用か?という声もあったが昔と同じオイル&染料による丘染め染色(By 塩原レザー)とのこと。

(11) チノパンと合わせる(その1)
新着ブーツと相性のいいパンツは?…アナトミカでピエールが履いていたのも良いがミリタリー風のブーツにはミリタリーチノが一番。オールデンに敬意を表してアメリカ製(バリーブリッケン)をチョイス。敢えてクリースを付けてオフィサーズ風に履いてみた。アーチ周辺はビスポークのようだ。

(12) チノパンと合わせる(その2)
陽の当たり具合でシガーコードバン本来の色が見える。アナトミカの全アイレットだと蝋引き平紐を結ぶのが一苦労。いざ履くとなったらラコタの上4列フック仕様の方が楽なはず。とはいえアナトミカの価格は184,500円(1120€)から免税分21,475円を引いて163,025円。ラコタの定価191,400円とは28,375円の差がある。

(13) 初代モディファイド
写真は35年前のヤコブソンVチップ。お世辞にもカーフ素材は良質とは言えないしライニングの前半分はキャンバス素材だったと思う。それでも当時からフィット感は異次元だった。黒塗りのレザーソールにフットバランスヒール、ウェストのくびれた革底やパッド付きのタンなど今もまぶたに浮かぶ。


(14) 外羽根のセミブローグ
さてお次はアナトミカの2足目。こちらも勿論モディファイドラスト仕様。ブーツ購入後日を改めて再び店を訪問、オーナーのピエールにフィッティングして貰って購入した記念すべき1足だ。ピエールによる計測結果は9-Cから9.5-Cにアップ。旅も後半に突入してそろそろ足が浮腫んできたのか…。

(15) 6アイレット
クラシックなアメリカ靴お得意の6アイレット。5アイレットの英国靴が多い我が家では目下唯一の存在だ。朴訥として無骨な男の靴といった佇まいに強く惹かれる。正直なところフィドルウェストや凝った意匠のソール、低く構えたつま先や小ぶりなヒールなどビスポーク風の靴はもう充分、今はこんな靴が好みだ。

(16) 色の濃淡
カラー8に顕著な左右の色の差。ピエールも気付いたのか試着後箱に戻す際、左右の製造番号をチェックしていた。客の試着後8.5と9.0のサイズ違いをペアにして箱に戻すことはよく有りがち。思い返せば昔ロンドンのポロショップで靴を買おうとした時、ついぞ片足が見つからず購入を断念したことさえあった。

(17) 製造番号
製造番号の最初2文字は7K、即ち2017年の11月製造になる。アナトミカのストックの中でも古参か。左右の色の差については「気にするならオールデンに手を出さない方が良い」など厳しい意見がネット上に見られる。オールデンでは色の差もさることながら左右で革の厚みも違うことが間々ある。

(18) ソール
35年来変わらぬナチュラル仕上げのシングルオークレザーソール。踵のパーツはフットバランスヒールと呼んでいたがアーコヒールという名前があるそうだ。昔履いていたヤコブソンのトーマスヒールとは形状が違う。因みにヒール交換はリファーレやユニオンなど純正パーツでリペア可能なショップが有るので助かる。

(19) 靴のサイド
横から見たヒールの積み上げ(革を重ねた部分)。上に被せた黒いゴムパーツ(フットバランスヒール)の角が飛び出している。これほど極端なのはオールデンくらい…作りが雑と言われる所以だ。一方:〇:〇が連なるヒール部分は革を重ねずステッチのみ。履き心地を重視してイミテーション仕上げにしている。

(20) 穴飾り
穴飾りの拡大写真。左上がヒールカウンター部分で一番穴が大きい。右上はスロートラインで穴の大きさは2番め。左下のつま先は2番めのスロートラインと同じ大きさ、一番小さいのが右下の外羽根部分。穴の大きさを場所によって変えることで「デザイン上の効果」があるのだろう。

(21) タンのパッド
ヤコブソン時代から標準装備のタンパッド。紐を結ぶとその効果が実感できる。外に向かって大胆に傾斜の付いた履き口は人の足の外踝(くるぶし)が下に付いているためとか。自身靴をビスポークする際必ずチェックする部分だけにモディファイドオールデンの履き心地に共感を覚えるのも致し方ない。

(22) アナトミカとのWネーム
伝説のショップ”エミスフェール”が「モディファイドオールデンのVチップを日本に流行らせた」と語るのはビームスの中村さん。当時のファンは後継のピエール率いるアナトミカオールデンにも熱烈な支持を寄せる。サイモンクロンプトン推しのNYはMoulded Shoeと並びモディファイドオールデンの聖地といえよう。

(23) デニムと合わせる(その1)
インスタグラムで#モディファイドラストと打つと出てくる靴好きの足元はデニムが多し…ということで寸胴のRRLデニムにインしてみた。日頃8.5-Dの足に9.5-Cだと見た目が結構違うかも…と思ったがノーズの短いデザインにワイドデニムのせいか気にならず。それに色の左右差も殆ど分からない。

(24) デニムと合わせる(その2)
ベージュやホワイト系のスリムなデニムも良いが目下の好みはシンチバックやサスペンダーボタンの付いたタイプ。デニムがワークウェアだった頃の雰囲気だ。501だったらLVCの1933年モデルあたりか。一方で裾上げ短めのコットンやウール素材のテーパードパンツに凝ったソックスと合わせるのも大いにあり。

(23) オールデンファミリー
今や手持ちの既成靴の中でクロケットと並び最大派閥のオールデン。一時はエドワードグリーンがその座だったが靴の好みも時代とともに変わるものだ。英国靴好きを自負しつつも元々アイビー世代。アメリカものへの憧れが常にある。大雑把な作りのオールデンに惹かれるのも本能に近いか…。

足を怪我して使わずにいると「筋肉が衰えるので元に戻すためのトレーニングが必要」だそうだ。ところが実際は筋肉だけでなく足裏の皮膚も関係がある。靴を履くと「角質が硬くて厚くなりがち」な足裏が長い間歩かずに過ごすうちにターンオーバー(再生)して柔らかくなってしまったようだ。

そこにいきなりの長期海外旅行はきつかったのだろう。毎日あちこち歩くうちに靴擦れや足指の腹に血豆が出来ることさえあった。改めてアナトミカパリの品揃えを思い返してみると革靴ならモディファイドオールデン、サンダルならビルケンシュトックと今の自分の足にピッタリの品揃えだ。

実はこの夏「アナトミカに行こう」と思ったのは足を怪我する前の事。虫の知らせか足の不調に本能が命じたのか…。どちらにしても「縁は異なもの味なもの」アナトミカに出会えモディファイドオールデンに再会できたこの夏は最高のバカンスだった。

By Jun@Room Style Store