ギリーブローグ | Room Style Store

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2023/10/02 09:34


スコットランドが起源のギリーブローグ。靴の湿気を逃すべく波型のアイレットで甲部分を大胆に開放したデザインはジョンロブパリやエドワードグリーン、クロケット&ジョーンズにトリッカーズ、チーニーや廃業したアルフレッドサージェント等英国既成靴メーカーの殆どが製品化してきた英国ではポピュラーなデザインだ。

英国靴好きとしても1足は欲しいもの。ラルフローレンでクロケット製のギリーを見つけた時は大喜びで即買いしたがデザインはタン有りの改良型。真の英国通によればギリーのオリジナルはあくまでもタンなし…らしい。そう聞くと俄然「よし、それなら本場英国でタンなしギリーのビスポークを…」と密かに思い続けてきた。

そこで今回はコロナ禍の2020年夏に25%の期間限定オファーを受けて注文、3年かかってこの夏届いたギリーを紹介してみたい。

※扉写真はギリーとアーガイルソックスのスコティッシュコンビ

(1) 24日かかった靴の受取
ロンドン出荷の靴は日本に入るとUPSジャパンが通関・税金徴収など全てを代行。自動追跡メールから「都内で足止め」状態だと判明、10日かかって配達された。ところが納税額が高過ぎたので受取を一旦保留、減額申請を経て更に2週間かかって届いた(上の写真)。その間のやり取りは有料記事を参照あれ。

(2) 包み紙を剥がす
包み紙を丁寧にはがす。添付のインボイスによると靴本体が5937.5£(VAT込)で輸出価格が4750£(VAT引)。25%オフで3562.5£が最終価格。一方ツリーは1186.25£(VAT込)の輸出価格が949£(VAT引)。25%オフで最終価格が711.25£。靴本体が約648,800円でツリーが約129,500円…靴もさることながらツリーの値段に驚く。

(3) 靴を取り出す
今回はハンドメイドのシューバッグを頼まなかったのでクレバリーやフォスター同様、既成のシューバッグが付属。個人的にはこれで十分だと思う。最初の1足目は記念に注文したが家の中では袋に仕舞うことは滅多にないし旅行にキャリーするなら靴磨きにも使える普及版のシューバッグで十分だ。

(4) 並べる
取り出した靴を並べて見たところ。フリンジ(キルト)は裏に当て革が貼られているがアッパー(革)自体が柔らかなカールフロイデンベルグのためウェストンの市販キルトよりもやわな感じがする。箱の中に仕舞っていたこともあり所々撚れている。キルトの付いた状態を見ると靴のボリュームは十分、ツイードのパンツとも合いそうだ。

(5) ツリーを外す
ツリーを外してみたところ。ジョンロブお抱えのツリー職人の手によるもの。今は廃業したフォスター&サンで松田さんが活躍し始めた当時はビスポーク靴のツリーをこの職人に発注していたそうだがジョンロブ専属になってしまい、さてツリーをどこに発注したものかと随分試行錯誤を重ねたようだ。

【参考資料①】
ジョンロブとフォスターのツリー比較(その1)
どちらも同じ職人の手によるシューツリー。左がフォスター&サン時代で右がジョンロブ移籍後。ヒンジタイプのツリーだが軽量の木材を使ったフォスターではくり抜きは最小限なのに対して重たく木目の美しい木材を使用したジョンロブはその分つま先側も踵側も丸くくり抜いて軽量化を図っている。

【参考資料②】
ジョンロブとフォスターのツリー比較(その2)
ビスポーク靴のツリーはラストを基に作られるという。昔パリのマークグイヨから「ディミトリゴメスならお気に入りの靴のツリーから仮縫いなしのフルハンドで靴が作れる」と聞いたことを思い出した。ジョンロブもフォスター&サンもシューツリー自体のシェイプが素晴らしい。当然フィットも良好だ。

(6) ロイヤルワラント
靴を履く度目にする金文字の中敷き。ジョンロブパリも同じJohn Lobbロゴを使用しているがロンドンロブにはロイヤルワラントが2つ入る。かつてはロンドンとパリにニューヨークと3都市だった時代もあるようだ。ロンドンと刻印された文字が注文靴のみで奮闘するジョンロブの今を表している。

【ギリーへ変身】
(7) 結び目を出す
今回のギリーの目玉がこの着脱式タッセル。このおかげでキルトの取り外しが可能になる。職人のティームに伝える際イラストを描いて説明を加え、それをPDF化してメールで送ったことを思い出した。思い返せばコロナ禍の移動制限は本当に不自由だった。今こうして自由に行き来できる幸せを大切にしたい。

(8) タッセルを外す
シューレースの結び目を解いたところ。紐の先端に付く透明な部分はセルチップまたはアグレットと呼ばれる。東急ハンズの靴ケア売り場にあるそうでドライヤーで熱すると縮んで見慣れた先端になるとか。結び目からはみ出るセルチップをぎりぎりまでカットして外から見えないようにてある。

(9) タッセルを外す
タッセルを外した図。そのまま紐を結ぶとなぜか格好悪い。ギリーとタッセルはセットのようだ。因みにタッセルが靴のデザインに登場したのはハリウッドスターが靴屋に注文したのが始まりとか。それを商品化したのがブルックスブラザーズで製造元がオールデンだったという話は靴好きの心をくくすぐる。

(10) キルトを外す
キルトを外して再びタッセルを元に戻すところ。紐が通っている甲下のループはメーカーによって微妙に異なる。ジョンロブは根元に1つのオーソドックスなタイプだがジョンロブパリは根元と両脇の合計3つも配置している。既成靴はどうかと調べてみると件のラルフ特製クロケットギリーはやはり1つだった。

(11) タッセルを再び付ける
タッセルを通して再び先端を結んでノットを作ってみた図。結び目が上手く隠れるようタッセルの内部は筒状になっている。ティームも実際に結んだり解いたりして機能するよう調節してくれたようだ。ジョンロブのオフィシャルサイトによれば「非常にユニークな」ギリーとのこと。

(12) ギリーに変身
タッセルを外してギリーに変身し終えたところ。グリコアーモンドキャラメルのCMではないが"一粒で二度美味しい"靴に仕上がっている。完成度は満足のいくもの…何より履き心地が良い。実はオーダー時にタンをマジックテープ等で着脱式に出来ないか提案したが履き心地を考えてボツになった経緯がある。

【参考資料③】
純正シューバッグ
写真左が特別オーダーのシューバッグ。右の普及版との差は一目瞭然。エグゼクティブがスーツケースに入れておいた靴を袋ごとホテルのコンシェルジュに渡して靴磨きを依頼する。そんなシチュエーションならば格好良いだろうが、かような世界観とは無縁の身ゆえに宝の持ち腐れとなりかねない。

(13) 靴の左側
つま先の形状はラウンドながらもソフトチゼル気味。ジョンロブパリも同様のラインで仕上げてくる。チゼルトウ自体はロンドンの誂え靴屋ジョージクレバリーが得意とするスタイル。その名のとおりノミ(Chisle:チゼル)で上から斜めにそぎ落としたようなつま先はスクェアトウとセットで注文したものだ。

(14) 靴の右側
横から見た感じは中央にアザミの模様が入るものの思ったよりもシンプルだ。これなら踵やつま先横にもう少し穴飾りを追加してもよかったか…元々ツイードやコーデュロイ、モールスキンに地厚なチノパンなどタフなパンツを想定。靴も負けないようにコテコテのデザインにしても良かったかもしれない。

(15) 靴底の仕様
靴底は指定しなかったがウェスト部分を茶色に仕上げている。ここが黒なら「半カラス仕上げ」というのだろうがはたして茶色でも半カラスというべきか。革底のLOBB刻印に胸熱…検品合格の証として打刻されるのだろうか。ジョンロブとジョンロブパリのビスポークでしか見られないものだ。

【参考資料④】
刻印を打つためのハンマー
こちらがLOBBの刻印用ポンチ。当然ながら文字は左右逆だ。1995年頃それまでの旧工場がエルメスに買収されてしまい、自社工場を失ったエドワードグリーンが同業のグレンソンに工場を借りて製造していた時代の靴は革底にMasde in Englandの刻印がなかったことをふと思い出した。

(16) 装飾
ウェスト部分を茶色に仕上げた後でラインに沿ってオーナメント(装飾)を入れている。底付はロンドンのアウトワーカー界の重鎮ジミーマコーマック。フォスター&サン以来ずっと自分の靴を手掛けている名工だ。つま先のメタルトウチップは予めリクエストしておいたもの、つま先を保つには欠かせない。

(17) 真上
再びキルトを付けて真上から撮影。波型状のアイレット部分がすっかり覆われてギリーの面影は全くない。肝心の履き心地だが多分キルトを付けずにギリーとして履く回数の方が多くなりそうだ。紐靴よりローファーの方が快適だがそのローファーよりもギリーの方がさらに楽かもしれない。

(18) ソックスの見え方
タンなし正統派ギリーを注文した時から下に履きたいソックスはアーガイルソックスと決めていたのでさっそく合わせてみた図。波型のアイレット部分から覗く菱形の模様がギリーらしいデザインを強調する。やはり菱形の模様はくるぶしまでしかない安価なタイプよりつま先まで入るものの方が見栄えが良い。

(19) ソックスコレクション①
写真はロイドフットウェアがパンセレラに別注をかけたアーガイルソックス。一番上の黒のみコットン×ナイロンだが他は全てウール×ナイロンタイプ。サイズはMのみ、しかも今は既に別注を受けなくなっているそうで在庫がなくなり次第二度と買えなくなる。英国ファンでサイズが合うなら買いだろう。

(20) ソックスコレクション②
オフィシャルUKサイトでも日本代理店の真下商事が運営するオンラインショップでも購入可能なパンセレラのアーガイルソックスだが色目が少ないのが難点。その分ロイドフットウェアが別注してくれたおかげで手持ちのアーガイルソックスはだいぶ充実した。寒い時期のためにロングホーズタイプもストックしている。

数多ある靴のデザイン中でも特に個性的なギリー。周りで誂えたことがある経験者は皆無だ。SNSのフォロワーさんによると「いろいろな種類の靴を試して最後に辿り着くデザイン」ということらしい。なるほどギリーを注文するより前に注文すべきは「より汎用性の高い靴」ということだろう。

紳士靴の人気デザインは①プレーントウ②ストレートチップ③ウィングチップ④Uチップ⑤ローファー⑥ストラップの順だそうな。97年の初ビスポーク靴以来25年、既にひととおり注文した今、ようやく「履く機会の多さ」より「本当に欲しいもの」をオーダーする心構えができたということか。

となると後はどう履きこなすか…ということになる。

By Jun@Room Style Store