秩父鉄道の魅力 | Room Style Store

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2023/10/22 13:15


東京からバイクで1時間、埼玉県南西部を走る秩父鉄道の歴史は古い。1901年上武鉄道として発足。1916年には秩父鉄道となるも不況で熊谷~波久礼から先の建設が中断してしまう。後に日本資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一の助言もあって、秩父まで線路を延伸、武甲山で採れる石灰石の輸送で秩父鉄道の名に相応しい鉄道事業者へと成長していった。

1922年には日本で3番目に全線電化を完了した民鉄として石灰石やセメントの輸送で事業を拡大、今なお全国的に珍しい貨物と旅客の営業を行う私鉄である。1988年からはSL列車パレオエクスプレスを運行させるなど観光事業にも力を入れており、2019年11月8日の創立120周年には新たなロゴマークの制定や様々なイベント開催で大いに話題を呼んだ。

そこで今回は風光明媚な長瀞を中心に秩父鉄道を訪問した時の様子を紹介しようと思う。

※扉写真は上長瀞駅で出発を待つ秩父鉄道の電車

(1) 早めの給油
始発電車に間に合うよう夜明け前に出発。関越道の花園ICを降りて24時間営業セルフスタンドに立ち寄る。多分ここから先のスタンドは朝早いので閉まっているはず…燃費は20㎞/ℓ、60㎞走っているので満タンまで3ℓしか入らない。それでもタンク容量の40%分、油断は禁物だ。

(2) 夜明けのコーヒー
10月になると夜明け前の秩父は寒い。薄手のダウンベストを着込んで正解だった。給油所側のコンビニで休憩。マイ定番のホットコーヒーは今や年間11億杯も飲まれる超ヒット商品らしい。「店内のスイーツやパンと相性が良くクセがなくてすっきりとした味わい」が売れている理由のようだ。

(3) 長瀞駅
空が白けるとほぼ同時に長瀞駅に到着。「開業当時のままで、歴史ある木造建築の駅」として関東の駅百選に選ばれた駅舎は「佇まい」そのものが絵になる。入り口にあるレトロな郵便ポストや年代物のロッカー、最新の発券機やタッチ式の自動改札など新旧がいい塩梅に調和している。

(4) バイクと名駅
明治開業当時のまま残る駅舎や毛筆で書かれた木製の駅名標に秩父鉄道の社章。バイクを入れて撮るには人気のない早朝が一番。右手にチラリと写る古い改札口が旅情をそそる。観光名所の中心駅ながら「早朝と夜間は無人駅」とのこと。それでも手入れの行き届いた駅舎は訪問者の心を和ませる。

(5) 始発列車
撮影していると始発電車が到着。車両は7500系の2019年ラグビーワールドカップ日本大会仕様。4年経って今度は2023年フランス大会を盛り上げそうだ。元は東急の大井町線で活躍していた車両らしい。地方私鉄の魅力は他社からの譲渡車両が再び活躍する姿を見られるところだと思う。

(6) 和銅黒谷駅
次に向かったのが和銅黒谷駅。大正3年開業の駅舎は終日無人駅だが列車到着に合わせて車で送ってもらった学生や会社員で混雑する。6時台なのにホームは結構な賑わいだ。その昔「和銅」が採掘された遺跡への最寄り駅なだけに「和銅開珎」のモニュメントがホームに設置されている。

(7) モニュメント
改札越しに見える「和同開珎」のモニュメント。駅舎内の時刻表は敢えてレトロ調に仕上げているようだ。上り下りともに一時間に2本、時間帯によっては1本だが当ブログ「ローカル線を訪ねて」で紹介した小湊鉄道より本数は多い。ここ和銅黒谷駅では単線ならではの列車交換を撮影。

(8) 列車交換
1番線(左)の三峰口行と2番線の羽生行(右)の交換。のどかな景色とラッピング電車はミスマッチに思えるが地方私鉄ではメッセージ車両が流行っている。後から来た1番線の「超平和バスターズトレイン」が先に出発、その後先に来た2番線の「彩色兼備」が出発していった。後ろは武甲山。

(9) 羽生行
後に出発した羽入行「彩色兼備」は2019年の創業120周年に登場した編成。才を彩の字に替えた意味には「秩父沿線が様々な美しい景色と美味しい食べ物にあふれている」という意味が込められている。公式HPによればアニメ調のラッピング車両は元東急8090系を譲り受けて改造したものとのこと。

【参考資料】
貨物と旅客営業を行う秩父鉄道には貨物列車が踏切をふさぐ時間帯が貼られている。平日は1日3本、土日は1日5本。旅客に配慮して平日の本数は少ないようだ。ただ平日の2本目は21分間も踏切が下りたままなのに驚く。長い貨物列車が列車交換する間踏切が鳴り続ける様子が思い浮かぶ。

(10) 武州日野駅
三峰口方面に移動して武州日野駅に立ち寄る。終日無人らしく朝日の当たらないホームは秘境駅のようだ。一日の平均乗降者数は2019年の148人から2019年には94人まで減少中。もっとも人口増加傾向と言われた首都圏でさえ2021年には人口減に転じている。今や全国的な懸念材料に違いない。

(11) 安谷川橋梁
武州日野駅を羽生方面に戻った安谷川に掛かる鉄橋。山合いを走る秩父鉄道らしい写真が撮れるポイントだ。和銅黒谷駅で見送った「超平和バスターズトレイン」が三峰口で折り返してやってきた。構造物が線路の下にある上路式鉄橋は通過する列車がよく見える。SL運転日は大勢のファンで賑わうようだ。

(12) 三峰口駅
秩父鉄道の終点「三峰口駅」に到着。こちらも長瀞駅と同じく関東の駅百選だけあって絵になる。「秩父多摩国立公園の表玄関で開業当時の面影を残す素朴な駅」が選定理由。出てきた駅員さんと暫しバイク談義…昔のホンダCB750フォアに乗っているそうでカワサキZ1乗りとしては旧車愛で話が弾む。

(13) 湯の入沢橋梁
こちらは三峰口の一つ先、白久駅と武州日野駅との間にある湯の入沢橋梁。赤く塗られた鉄橋は「上路式プレートガーター橋」と呼ばれるもの。こちらも線路が橋の上を通っているので車両がよく見える。扉写真にも出てきたこちらの車両は2両編成の秩父鉄道7800系。やはり元東急の譲渡車両だ。

(14) モーニングセット
日が昇り気温も上がってきたので朝食タイム。検索すると昔懐かしモーニングを提供する喫茶店が近場にあるのを発見。しかも「間も無く終了(8時30分で)」と出ている。場所は沿線一賑わう秩父市。なんとかサービス終了の10分前に到着。バイクを置いて店に入るや否やメニューを見ることなくモーニングを頼んでいた。

(15) コーヒー
頼んでからパンを焼きスクランブルエッグを調理するなど丁寧な仕事ぶりが嬉しい。都心のドトールコーヒーとは違ってなぜか時間もゆったりと過ぎていく。食後の淹れたてコーヒーもまた美味し。コンビニのあっさり味とは違ってパンチがある。秋の柔らかな日差しが差し込む席でついうたたねしてしまった。

(16) 武甲庵
喫茶店の名前は武甲庵。秩父市役所のすぐ横にある。役所勤めの人や用事がある人が利用するのだろうか。店内は居心地がとても良い。最近はコメダばかり行きがちだったが昔ながらの喫茶店も悪くない。木の扉や光の入り込む大きな窓、趣味のいい小物が並ぶスペースなど店主の心遣いを感じる。

(17) 上長瀞駅
モーニングでひと段落したら上長瀞駅へ。バイクを駅前に置いて歩いて河原へ降りて上流へ向かった。秩父鉄道最大の名勝地「荒川橋梁」で通過する電車撮影に挑戦。気分は撮り鉄だがそれにしては撮影用のカメラや三脚もなし。スマホを片手に慌ただしく立ち位置を探すなどいかにも素人だ。

(18) 荒川橋梁にて(その1)
骨組みがなくすっきりとした鉄橋に広々とした河原。遠くに見える山々は首都圏とは思えない。絶好の撮影ポイントだというのも確かに納得の景色だ。河原で待つこと暫し、カタンコトンという音が聞こえたと思うと列車が突然現れた。何枚か撮影した中で一番収まりのいい一枚を載せている。

(19) 荒川橋梁にて(その2)
次は河原の巨岩に登って撮影。さっきの鉄橋通貨写真より空の位置がグッと高くなっている。やってきた電車は見慣れぬブルーラインが特徴の車体。この日初めて見るタイプだ。撮影後に調べてみると5000系とのこと。元々は都営三田線の車両、ラインも当時のままだとか。懐かしいと思うファンもいるに違いない。

(20) 長瀞下り
撮影を終えて撤収しようと河原を歩いていると長瀞観光の目玉、川下りの船がやってきた。写真だと豪快さは伝わらないがスピードはかなりのもの、流れで船首が縦に激しくピッチしたり底をするような音も聞こてくる。乗っているとかなりスリルがあるに違いない。舵を取る船頭さんの姿が凛々しい。

(21) 名物ランチ
昼食タイムは再び秩父市に戻って名物のわらじカツ丼にトライ。カツは1枚と2枚が選べるので迷ったが写真映えのする2枚にチャレンジ…薄くてサクサクなカツに甘辛なタレが染みて美味い。これなら楽勝か…と思いきや中の御飯が中々のボリューム。決して多くないのだろうが完食できず…。

(22) 温泉
温泉施設に食事処や土産物屋が合体した商業施設は集客力があるのだろう、平日のこの日も県外からやってくる客が多かった。広い駐車スペースは有料だがバイクは無料の駐輪場があるので助かる。食後に再び給油して身も心もバイクも満タン…帰りは下道で峠越えを楽しみつつ無事帰宅した。

関東運輸局が推奨する「みりょくある関東の地域鉄道各社」には「地域鉄道には鉄道好きの人は勿論、鉄道に興味のない方にも楽しめる旅情や魅力にあふれるスポットが沢山ある。また都心からのアクセスも意外に容易だったりする。利用し楽しむことが地域鉄道の活性化にもつながる」とある。

埼玉県で唯一紹介されている「秩父鉄道」は池袋から特急で1時間20分。都心からのアクセスも良く休日は「パレオエクスプレス」で懐かしいSLにも出会える。立ち寄りどころ満載な路線がら残念なことに乗り放題の「秩父路遊フリーきっぷ」はPASMOの導入に伴いこの3月に販売を中止している。

次回はバイクを置いてぜひとも電車旅を満喫したい。

By Jun @Room Style Store