ブーツのスタメン | Room Style Store

Blog

2023/11/01 14:18


天気予報によれば「11月に入っても夏日がある」ようだ。「えっ!」と思ったが確かに今日も暖かい。来週は立冬だというのに半袖姿で履く靴を探している。ラックの扉を開けると中には11足のブーツがずらり。ああそうだ…ローファーと入れ替えたんだった…整列中のブーツも出番待ちでさぞ肩身が狭いに違いない。

昔から身に付けるアイテムが増える冬こそ「お洒落が楽しい季節」と言われている。足元コーデもブーツが本命と買い足すうちに26足の大所帯になっていた。とてもじゃないが全部入れる余裕はない。そこでサッカーの日本代表と同じく26足からスタメンを選び11足のブーツをピッチならぬラックに並べたところだった。

そこで今回はブーツのスタメンでコーデを組みながら冬の訪れに備えようと思う。

※扉写真はブーツのスタメン

【トリッカーズ:MF】
(1) カントリーブーツ
まずはスタメンの中でもベテランのトリッカーズ。写真を見ると分かるが左足つま先の黒染みはバイクのシフトペダル跡。カモ柄パンツ&カーキスウェットのアーミー調からツイードものまで来るもの拒まず。さしずめ守備的ミッドフィルダーか…出身はノーザンプトンのファクトリーストアながら正規ものと遜色なし。

(2) MALTON
シーシェードと呼ばれる独特の色目が特徴のMALTON(モールトン)。同じデザインとラストながらアッパー違いでSTOW(ストウ)もある。ソールはレザー、ダイナイト、コマンドの3種類、個人的にはダイナイトソールが一番扱い易いと思うが濡れた路面や金属プレートの上では滑りやすい。

【クロケット&ジョーンズ:FW】
(3) チャッカ
次はスタメン中最軽量のCHUKKA(チャッカ)。ポールスチュアート出身だけあってラルフ(ラガーシャツ)&バリーブリッケン(チノ)のアメリカンデュオとも好相性。前籍は英国のクロケット&ジョーンズで唯一Dウィズの肩書どおりタイトなアーチと内振りラストで全力疾走も難なくこなすフォワード的存在だ。

【参考資料①】
左がスニーカー並みのフィットを誇るモディファイドオールデン。右がクロケット&ジョーンズのチャッカ。細身のウェストに安定感のあるヒールや内振りラストと幅広なつま先などよく似ている。どちらもアッパーがアンラインド仕様なのも共通点。だが紐の結びやすさでチャッカは一頭地を抜く。

(4) スナッフスエード
起毛素材のチャッカはポールセン&スコーンに続く2代目。昔はタバコスエードと呼んでいたが今や英国では「紙巻きたばこ生涯禁止法案」が提出されるなど「反たばこ化」が進んでいる。Tobbaco SuedeからSnuff Suedeに変えたのもそのせいかと思いきやSnuffとは嗅ぎタバコのことだとか。

【オールデン:MF】
(5) クレープソール
スタメンの中でも眩く光るブラスアイレットとフックがアイコンのプレーントウブーツ。アメリカンなデニム&スウェットによく合う。それもそのはず出身はアメリカのオールデンなら前籍もアメリカ最古の衣料品店ブルックスブラザーズとオールアメリカンの貴重な逸材。疲れ知らずのクレープソールはミッドフィルダーに相応しい。

(6) ブルックス別注
自社の名前を出さずに長年ブルックスブラザーズの靴を作っていたオールデンが関係を解消したのが2018年頃。その後イタリアのサセッティや同じアメリカのアレンエドモンズに変更したものの2020年にはコロナ禍で経営破綻してしまう。再建後は一時靴のラインナップが消えたが、ここでメイン州のランコートにより復活したようだ。

【モディファイドオールデン:FW】
(7) アナトミカ別注
こちらはスタメンの中でクロケット製チャッカと2トップを組むモディファイドオールデン。生まれはアメリカだがFIFAランキング2位のフランスはアナトミカパリ出身。フレンチトラッドよろしくハンドニットとデニムとの相性も抜群、吸い付くようなアンラインドコードバンとしなるレザーソールでフォワードを担っている。

(8) モディファイドラスト
アナトミカパリの中でもシガーコードバンということでひときわ存在感を放っていたがいざ手元に来るとオールアイレットのブーツは履くのも脱ぐのも手が掛かる。履く前にはアイレット3つ分紐を外して十分緩めること、脱ぐ時も億劫がらずに紐をアイレットから外すのが一番賢い方法だと気付いた。

【ジョンロブパリ:DF】
(9) フランス製
スタメン中唯一のフランス生まれ。出自はエシュンだがジョンロブパリに昇格、更に日本のUA(ユナイテッドアローズ)によって白ステッチや特別な革を纏いロッキーとして参戦。雨に強いストームウェルトを武器に写真のようなレインウェアと組んでディフェンダーの役割を担っている。

(10) JLのロゴ入り
ジョンロブパリ傘下のコテージラインには写真のROCKEY(ロッキー)と双子のBARROW(バロウ)も在籍していた。見分けるコツはフック真横の履き口にJLロゴがある(ロッキー)かない(バロウ)か。写真は加水分解で純正ソールを交換した後の姿だが軽快感は変わらず。本家ジョンロブパリを凌ぐ実力を発揮している。

【マルモラーダ:MF】
(11) 傑作マウンテンブーツ
こちらもスタメンの中では唯一のイタリア生まれ。スリムなコバに靴底のパターンがぎりぎりに来るデザインはグッドイヤーでは成し得ないもの。伝統的なノルべジェーゼ製法を用いることでスリムなトレッキングブーツを実現している。見た目と裏腹の軽快さとグリップ力の高さはミッドフィルダーに最適。

(12) イタリア製
一時期は重鎮シルバノラッタンジを筆頭にイタリア生まれが多かった我が家の靴棚も最近は減少気味。欧州CLでイタリア勢の元気がなかった頃と重なる。とはいえイタリア靴業界でレガシー級といえばグッチのビットローファーとこのマルモラーダだと思う。どちらも履けばその実力のほどがすぐ分かる。

【参考資料②】
ヒール角の面取り
マルモラーダの魅力は妥協のない作り込み。綺麗なチェーンステッチに目が行きがちだが写真のようにヒールの角を丁寧に落とすなど芸が細かい。この一手間で靴の内側の傷を防いだりパンツの裾に引っ掛けるのを防いだり、或いはトレッキング中に岩に角がヒットしてもダメージを減らせるとのこと。

【レッドウィング:DF】
(13) 8インチブーツ
スタメン中英国の次に多いアメリカ生まれ。トラクショントレッドソール(ホワイトソール)に手縫いのモックトウこそレッドウィングそのもの。8インチの長身はディフェンダーが適任だがアイリッシュセッター(猟犬)の愛称や軽量なソールで機敏な動作もお手のもの。アイレットが10列並ぶ様は盾のようだ。

(14) オロラセット
1996年当時の名作を継承、2018年に復活(復刻)した♯8877は当時と同じ赤みの強いオロラセット"ポーテージ"レザーが目印。所属元のレッドウィングでは♯877が後を継いでいる。写真のオロラセットよりオレンジの色味が強いオロレガシーで8インチとくれば昔欲しくて買えなかったものと瓜二つ。「買えば…」と悪魔が囁く。

【ジョージクレバリー:MF】
(15) バルモラルブーツ
こちらもスタメン中最多の英国ビスポーク生まれ、ジョージクレバリーのバルモラルブーツは厚いソールとコバのステッチがディフェンダー向きかと思いきや返りの良いハーフミドルソールとクレバリーらしい軽さでミッドフィルダーをこなす。ただバルモラルのデザインはデニムには合わない。テーラードパンツがお薦めだ。

(16) ゴイサー
3列のステッチが縁を360℃取り巻く仕様はゴイサーと呼ばれる。ストームウェルト用のステッチ+ミッドソール用&ボトムソール用のステッチ2列が加わる感じか。カーフとピッグスキンのコンビは当時ティームレッパネン(現ジョンロブロンドン)を中心にジョージクレバリーでコンビ靴が流行った頃の影響だ。

【ジョージクレバリーその2:DF】
(17) ツイード&シェル
こちらもスタメン中最多の英国ビスポーク生まれ。上と同じジョージクレバリー出身だがこちらはゴイサーではなくノルウィジャン製法。ワイルドなライダースジャケットとのコンビもこなす外観は正にディフェンダー的存在。ホーウィンシェルコードバンと14オンスツイードのコンビ姿はフィールドのどこにいようとすぐ分かる。

(18) トリプルステッチ
現在はジョンロブロンドンで働くフィンランド出身のティームレッパネンがジョージクレバリーで最後に担当したのがこのブーツ。デザインから素材選び、製法に至るまで検討を重ねた末に完成させたそのプロセスこそ真のビスポーク。靴を誂える醍醐味が凝縮された1足を見る度に当時のワクワク感が蘇る。

【サンクリスピン:DF】
(19) ルーマニア生まれ
スタメン中唯一のルーマニア生まれ。ラフなセーター&パンツルックとの連携も余裕でこなす。ジョンロブパリのプレステージモデルを参考にサンクリスピンのビスポーク工房に依頼。完成後はレッドウィング#8877に次ぐ長身としてディフェンダーに抜擢。シングルソールのウェスト部分を薄く漉いて返りを良くする手法は英国ビスポークにないもの。

(20) トリプルステッチ再び
スタメン中ビスポーク出身は4足。全てトリプルステッチ仕様になっている。今や短靴はもとより既成ブーツのレベルも年々向上している。ビスポークブーツがその優位性を保てるとしたら「素材や素材の組み合わせ」や「底付け」に拘るのがポイントとなろうか。できれば底付師は毎回同じ職人にしたいもの。

【フォスター&サン:GK】
(21) ロングブーツ
ブーツのスタメン中最も背の高い英国フォスター&サンビスポーク生まれのブーツがゴールキーパーに選出。重厚なソールと軽快なアッパーの組み合わせが安定感と軽快さの両立を可能にしている。フォスター&サンは廃業、商標権は日本の企業が所有しているので後継を名乗れないとのこと…何とも残念だ。

(22) 元祖トリプルステッチ
英国ビスポークではハンドウェルトがスタンダード。そこに古い技法のノルウィージャン製法で底付を依頼するとなるとボトムメーカーも練習が必要。最初は短靴のダブルステッチから始まりこのブーツでもモックアップで練習をした上で満を持してトリプルステッチにトライしたという。

スタメンのポジションやコーデも決まって小休止…それにしても温暖化が深刻だというのにブーツを26足も所有していた事実に焦る。因みに男性の靴の所持数は平均で8.2足、そのうち革靴は僅か1.9足、ブーツに至っては0.5足だという。なんと男性の2人に1人はブーツを持っていないことになる。

ならば、と女性について調べたらブーツの平均所持数は2.0足と男性の4倍。身嗜みに気を使う女性らしいとはいえブーツを「持っていない」と答えた割合も24.3%に上るそうだ。需要がこれほど少ないのに驚くとともにこのままでは近いうちに買うものリストからブーツが外れることになろう。

ウェザーニュースが「11月第一週は夏日続出」と煽るがニ週目は何とか気温も下がり気味…まずスエードのチャッカからブーツライフを始めてみようと思う。

By Jun@Room Style Store