わたらせ渓谷鉄道訪問 | Room Style Store

Blog

2023/11/22 11:01


最近関東のローカル線をバイクで訪ねるのが面白い。千葉県の小湊鉄道、埼玉県の秩父鉄道に続いて今回は群馬県…検索すると上信電鉄や上毛電気鉄道の名も上がるが架線のない線路を走るディーゼルカーのエンジン音に惹かれて「わたらせ渓谷鉄道」に決定、小春日和の平日を選んで東京を出発した。

2019年に開業30周年を迎えた「わたらせ渓谷鉄道」だがその歴史は古い。1911年に足尾鉄道として開業した後1918年には国鉄に編入されて足尾線となる。既に廃線となった足尾銅山へ向かう貨物専用線は日本の近代化や産業化の象徴だったが後年は日本初の公害問題や閉山など栄枯盛衰を見続けてきた。

そこで今回は歴史と景観を誇る「わたらせ渓谷鉄道」を紹介してみたい。

※扉写真は草木トンネルに向かう列車

(1) 高坂SAにて
今回のお供は久々のZ1。バッテリーやオイル、空気圧などチェックは万全、お陰ですこぶる快適だ。新車のハーレーと違って50年もののビンテージバイクだけにツーリング前の点検が欠かせない。関越道を走ること1時間、小春日和とはいえバイクはやはり寒い。たまらず高坂SAで一休みした。

(2) 大間々駅
出発後2時間ほどでわたらせ渓谷鉄道本社のある大間々駅に到着。早速駅前で記念撮影駅名標と丸時計が良い雰囲気だ。登録有形文化財の駅舎もホームも手入れが行き届いている。鉄道会社と株主である県や地元みどり市が一体となってわたらせ渓谷鉄道鉄を盛り上げている様子が感じられる。

(3) 古い看板
サビの浮き出た看板に書かれた群馬県山田郡大間々町の住所。町村合併でみどり市になったのが2006年だからそれ以前ということになる。実際はそれよりずっと前の古看板だろう。本社のある駅らしく大間々駅は駅員配置の有人駅。販売機で入場券を買ってプラットホームに向かった。

【参考資料①】
〜入場券〜
写真は券売機で購入した入場券当日1回限り有効、入鋏省略と書かれている。昔は改札口に駅員がいて入場時に入鋏(専用の鋏で切符に切り込みを入れること)してくれたことを思い出す。わたらせ渓谷鉄道も他の鉄道と同じく沿線の殆どが無人駅だが昔は駅に行けばたいてい駅員がいたものだ。

(3) プラットホーム
こちらが有形文化財のプラットホーム。上りと下りどちらも登録されている。跨線橋こそ新しいがホームの木造屋根など明治から令和まで五つの時代と様々な出来事を見てきたのだろう…年月の重みを感じる。因みに左側が桐生方面で右側が足尾方面、日本の鉄道は車と同じ左側通行が基本だ。

(4) 初代車両
大間々駅構内に静態保存されているディーゼルカーの「わ89-302」。屋根の下とあって保存状態はとても良い。今にも走り出しそうだ。反対側には「わ89-101」が連結されているので2両まとめて間近に見られる。1989年の開業時に製造された車両が2015年に引退とはやや早い気もする

(5) トロッコ列車
こちらはディーゼル機関車が引く客車のトロッコ列車。わたらせ渓谷鉄道の2枚看板といえばこの「トロッコわたらせ渓谷」とディーゼルカーの「トロッコわっしー号」だがこちらは土日のみ、当日はわっしー号が大勢の客を乗せて奮闘していた。紅葉シーズンは特に観光客で賑わうそうだ。

(6) 上神梅駅へ
次に訪れたのが上神梅駅。1912年開業当時の姿を今もとどめるムード満点の駅だ。2008年わたらせ渓谷鉄道で最初に国の登録有形文化財に指定されたのも頷ける。足尾鉄道開業時の面影を残す横綱級のれとろ駅舎と評判も高い。駅舎内には落書きや張り紙もなく手入れがよく行き届いている。

(7) 登録有形文化財(その1)
壁や梁は洗いをかけたばかりなのか木目がくっきりと浮かび上がる。地元の人たちの協力だろうか駅舎内の床もゴミ一つ落ちていない。トロッコ列車の停まらない上神梅駅はひっそりと静まり返ったまま…待合室でヘルメットを置き一休みしながら足尾線時代の賑わいを想像してみた。

(8) 登録有形文化財(その2)
改札口からプラットホームを見たところ。木枠の中に立つ駅員が切符を切る姿が目に浮かぶ。駅舎は勿論、両脇に見える屋内のベンチも全て木製、何とも言えない温もりがある。因みに木造家屋は適切に保てば100年を超える耐久性があるらしい。なるほど111年が過ぎた上神梅駅が今も現役なのも納得だ。

(9) 登録有形文化財(その3)
上神梅駅のホームから足尾方面を望む。昔は対向式のホームだったのだろう、右側にはまだ線路が残っている。両脇の桜が満開になる春は絶景だそうだが秋も悪くない。線路端の黄色い秋桜が印象的だった。駅を出ると一気に上り勾配となる足尾方面、架線のないオープンな景色が広がる。

(11) 神戸駅
更にバイクを走らせ辿り着いた神戸駅。「ごうど」と読むが、国鉄時代は関西の「こうべ」と間違えないよう「神土駅」と命名していたものをわたらせ渓谷鉄道発足時に本来の地名に合わせて神戸駅と改めたという。山村の小さな駅ながらトロッコ列車を乗り降りする客向けに大型バスが度々やってくる。

(12) 桐生行トロッコ列車入線
間もなく足尾方面から桐生行トロッコわっしー号がやってきた。この神戸駅も上神梅駅に負けないくらい春の桜が自慢だという。なるほど両脇の葉を落とした木々は全て桜のようだ。この時期わっしー号の予約は平日も満席。観光に注力するわたらせ渓谷鉄道の方針は功を奏しているようだ。

(13) 停車と列車交換
駅に到着したトロッコわっしーを降りる客。駅前の観光バスに乗って次の観光地へ向かうのだろう。一方で右手駅舎付近ではガイドを先頭に列車に乗らんとする客が待機している。次第に乗り降りする客でプラットホームや改札口が混雑していく様子を見ると田舎の静かな駅には不釣り合いなほどだ。

(14) 間藤行列車
トロッコわっしーの停車時間は15分ほど、地域の特産品販売やコーヒーにお茶など昔ながらの売り子が忙しそうに客の注文を捌いている。やがて桐生方面から間藤行普通列車が入線。こちらもかなり混雑しているようだ。車両の先頭でカメラを構え、沿線風景を撮影する客が窓越しに見える。

(15) 列車の並び
トロッコ列車(桐生行)と普通列車(間藤行)の並び。車両前面のイラストはオオモミジの葉のようだがわたらせ渓谷鉄道は秋に限らず春の桜や梅雨の紫陽花、夏の向日葵や冬のイルミネーションなど四季折々の魅力があるという。首都圏の風光明媚なローカル線として常にランクインされるのも頷ける。

(16) トロッコ列車の出発
先に到着したトロッコわっしー号が出発。2両目のオープン車両は景色の見え方も違うそうでまさに満席状態…雲一つない快晴とあって差し込む陽の光も車内を抜ける風も心地よさそうだった。公式予約サイトを見ると11月23日の祝日が今年の運行最終日とのこと。乗るなら来年4月までお預けだ。

(17) 間藤行出発
後から来た間藤行普通列車が出発。この先は1973年の草木ダム建設で付け替えられた区間を進む。全長5,242㍍の草木トンネルで140㍍の高低差を一気に上ると次は沢入駅。旧線は6㌖だったが新線になって駅間が7㌖に増えたそうだ。また旧線にあった草木駅は廃止され今は湖底に眠っているらしい。

(18) 通洞駅へ
更に足尾方面に向かってバイクを走らせ到着したのは通洞駅。ヨーロッパ風のハーフティンバー様式の駅舎が見どころ。足尾町の中心にあり観光の拠点として日中は有人駅になっている。足尾観光に訪れた客に道順を案内する駅員の姿を見かけた。無人駅にはない人のつながりを感じて和む。

(19) 列車の見送り
先ほど神戸駅で見送った列車に追いついたので再び通洞駅で見送り。因みに通洞駅も駅舎とプラットホームが登録有形文化財とのこと。足尾銅山跡は観光地となっており通洞駅から5分の場所にある。以前日光からの帰りに訪れたのでパスしたが歩いて銅山観光に向かう観光客と軽く挨拶を交わした。

(20) 足尾駅
更に一駅進んで足尾駅に到着。秩父鉄道の長瀞駅とおなじく赤いポストがチャームポイント、ホーロー駅名標とともに写真映えがする。やはり駅舎とプラットホーム、貨物上屋に危険物保管庫などが有形文化財に登録されている。朝の時間帯のみ有人駅のようで訪れた時はひっそりと静まり返っていた。

(21) 昔の車両①
右手に見えるのが登録有形文化財の貨物上屋。国鉄時代の気動車キハ35が留置されている。手前が朱色一色、奥がクリーム色とのツートンカラーだ。自分にとってはツートンの方がなじみ深い。平成8年まで足尾線で走っていた車両とのことだが平成21年の整備から手付かず状態で傷みが激しい。

(22) 昔の車両②
こちらは留置線に佇む保存貨車たち。細長いタンク車は足尾銅山で精錬する際発生する濃硫酸を運ぶために使われたものだとか。奥の太いタンク車はガソリン運搬用、懐かしいのが一番手前の車掌車。国鉄時代は貨物列車の最後尾に連結して車掌が乗り込み安全運行役を担っていたそうだ。

【参考資料②】
〜危険物保管庫〜
小さいながらも有形文化財に登録されている危険物保管庫。灯油などの危険物をしまうために作られたものでわたらせ渓谷鉄道では数少ないレンガ造建築物の一つだとか。開口部がアーチ状になっているなど凝った作りが目を引き、ホームの散策途中で思わず足を止めて撮影した写真だ。

(23) 第二渡良瀬川橋梁
足尾駅を後に通洞駅の先にある撮影スポット「第二渡良瀬川橋梁」でバイクを留め、先ほど見送った列車が折り返して桐生に向かうところを撮影。この鉄橋も有形文化財に登録されている。下を流れるのが渡良瀬川、1878年の鮎大量死が足尾鉱毒事件の発端となるなど公害事件の象徴となっている。

(24) 草木トンネル①
再び神戸駅に戻り草木トンネル付近に移動。間もなくトンネルを下る桐生行普通列車を待って撮影。やってきたのはわたらせ渓谷鉄道開業時からの古参車両わ89系310番台。大間々駅で生態保存されている車両と同型だがこちらは現役車両。1両ずつ異なる愛称板が付いており313号はわたらせⅡだった。

(25) 草木トンネル②
続いて間藤行の列車を背後から撮影。左手の勾配票を見ても分かるが21.0‰の上り坂が続くトンネルに向かって今まさに進入するところを撮影。時刻は3時を過ぎてあたりは既に西日、この後再び高速に乗って関越を一路東京方面に向かうことになる。気が付くと昼食を取るのも忘れての強行軍だった。

今年の4月に策定された「わたらせ渓谷鉄道再生基本方針」を読むと、沿線地域の人口減少による輸送人員減少に伴い厳しい経営環境が続いているという。そこで魅力ある地域づくりや恵まれた自然景観と環境、登録有形文化財としての位置づけを最大限に生かした増客増収を目指す方針が採択された。

途中の原向駅、通洞駅、足尾駅、終点間藤駅が栃木県日光市にあることから群馬県と栃木県、みどり市と日光市の各自治体の補助のもと鉄道事業者や住民と一体となりわたらせ渓谷鉄道の再生と経営安定化を図ると結んでいる。具体例には沿線開発やバス接続、観光資源のPRなどが盛り込まれていた。

今回わたらせ渓谷鉄道の魅力を多少なりともPRできたとしたら嬉しい。そして来年はぜひトロッコ列車を予約して乗りに行こうと思う。

By Jun@Room Style Store