靴の大掃除(ワニ革靴編) | Room Style Store

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2024/01/06 09:36


暦の上では冬だというのに夏日を観測するなど記録的な暖かさだった昨年末。週末は師走恒例の大掃除に精を出した。家をひととおり綺麗にしたら次は車を近所のガソリンスタンドに預けて洗車とワックスがけはお任せ。なんだ横着してるな…と思われがちだが、空いた時間と駐車場の敷地を利用して靴を外に並べるには車がない方が助かる。

最初はワニ革靴…暫く履かないので「長期保管のコツ」を調べたらまず①湿気を飛ばす…とある。ツリーを外して陰干ししながら湿気を飛ばしたら次は②乳化性クリームの塗布…とのこと。外から取り込んで栄養分を革に染み込ませさらに③ブラッシング…クリーム残りはカビの元になるとか。丁寧に搔き出して最後は④乾拭きで作業は終了。

ワニ革靴にワックスは要らないので楽かと思いきや陰干しに時間を取られ他の靴は手付かず。なりは小さいが靴の大掃除は大ごとだ。ともあれ今回は靴の大掃除「ワニ革靴」編を書いてみようと思う

※扉写真は手入れを終えたワニ革靴たち

(1) ストラップローファー(その1)
最初に手を付けたのが写真のストラップローファー。真鍮のバックルは見栄えは良いがよく見ると緑青が浮いている。アオカビにも似たその正体は空気中の水分が真鍮に含まれる銅と反応してできる錆とのこと。錆が出ているということはケアを怠った証拠、反省しつつまずはストラップを外していく。

(2) ストラップローファー(その2)
ストラップを外してみたところ。恥ずかしながら納品以来初めて外したと思う…バックルのローラーにびっしり緑青が付いている。写真では分からないが穴に通すツク棒にも緑青が浮き出ている。そういえば緑青って有害だったかも?…と調べたら実は無害、寧ろ抗菌性と殺菌性が評価されているとか。

(3) 緑青を除去する
一つ穴で絶妙にカーブしたストラップはビスポークならでは。さて、バックルの汚れは金属磨き用クロスで落とすとしてストラップはどうしたものか。そこでウェストン専用クリームの出番。「軽く拭くとあ~ら不思議、あっという間にピカピカに。栄養と艶出し、さらに汚れ落としまで!万能クリームの紹介です。」(TV通販のCM風)。

(4) 手入れ前後
念のため真鍮バックルの手入れビフォーアフター写真を掲載。手入れを終えた左足と汚れたままの右足を見比べれば違いは一目瞭、一手間かける価値は大いにある。右足のローラー部分は金属磨き用のクロスでも落としきれなかったのでプラ板の端切れでこそげ落としてみた。まだ1足目…やれやれ先は長い。

(5) クリーム塗布
ストラップをどけると繋ぎ目が…つま先からタンまで1枚革だと思われがちだが豈図らんや…隠れて見えない部分に切り返しを持ってくるとは中々やるじゃないか。ただしこの繋ぎ目や鱗の間にクリームが残ってしまう。せっかくバックルを外した良い機会とたっぷりクリームを塗ってブラッシング。

(6) 綺麗になったバックル
綺麗になったバックルは見栄えが良い。今すぐに履きたくなってくる。そういえばローマの靴職人吉本晴一さんのストラップシューズはオプションで純銀製のバックルが選べる。銀製品も黒ずみ(錆)が出やすいはずだが注文は多いとか。確かに黒カーフの靴に純銀のバックルなんて最高だと思う。

(7) 大掃除終了
すっかり綺麗になった外観。元々モンクストラップシューズが苦手だったのでバックルタイプの靴はこれ1足のみ。友人につられてビスポークした例外中の例外だ。昔はブレザーとグレーパンツに合わせていたが最近はたまにチノパンと合わせるくらい。この春夏はもっと出番を増やしたい。

(8) サイドエラスティック
お次はサイドエラスティックの番。手入れを怠りがちなのがゴム部分のカバー…蛇腹状のレザーはアッパーと同素材で一つ一つ縫い合わせたもの、手が込んでいる。ここにクリームを塗ると凹んだ部分に溜まるので裏から指で押し広げてクリーム塗布やブラッシングに乾拭きすると効果的だ。

(9) 甲の手入れ
こちらは同じサイドエラスティックながら甲にイミテーションレースが乗ったレイジーマンタイプ。写真を見ても白いクリームが溜まっているのが分かると思う。エラスティックのカバー同様ブラシで丹念に掻き出す。ギザギザのギンピングと親子穴は毛先を押し付けるようにしてブラシ掛けすると見違える。

(10) サイドエラスティックの大掃除完了
手入れを終えたサイドエラスティック2足。シューツリーを入れると履き皺も伸びて一気に若返る。因みに靴の見栄えを左右するのがつま先、特に革底靴はすり減ったつま先が「イマイチ」な印象を与えてしまう。履き心地に多少違和感が出るとはいえ履き下ろす前にメタルチップで保護するのがお薦め。

(11) 紐靴の手入れ(その1)
ようやく紐靴の大掃除に到達。日頃は紐を外さず簡単に磨くだけ…という場合も多いのではないだろうか。大掃除ということで丸紐を一気に外してレースステイ(紐が掛かる部分)やその下のタンもしっかりケアしていく。時間はかかるが靴を作った職人へのリスペクトにもつながるだけに心を込めて綺麗にする。

(12) 内羽根靴の手入れ
意外と面倒なのがタンの根元。特にずれないようタンの片側を甲に縫い付けている(写真の白矢印先)と指が入らない。平らな木べらにクリームを塗った布を差し込んで栄養分を行き渡らせる。次に同じ木べらに乾拭き専用の布を巻いて再び差し込む。ブラシが入らないので乾拭きが重要だ。

(13) 段差のブラッシング
ワニ革特有のスケール(模様)を生かすにはシンプルなデザインが良いはずだが写真の靴はつま先に一文字の親子穴が入っている。写真は穴に残ってしまったクリームを丹念に搔き出しているところ。親穴はブラシの毛先でOKだがクリームが詰まった子穴の場合は爪楊枝で搔き出すと良い。

(14) もう一足の内羽根靴
こちらは超シンプルな内羽根プレーントウ。大掃除も簡単…と思いきや平紐がくせものだった。最初に外すのも大変だが撚れないように通すのがもっと大変。いっそのこと丸紐に替えるか…と試したらドレッシーな外観に丸紐は不釣り合い。結局苦労して元の平紐に戻した。これで5足終了、やっと折り返しだ。

(15) 外羽根の手入れ
気を取り直して後半戦に突入。写真はワニ革靴の中で唯一の外羽根。といってもカントリータイプのゴツイ靴じゃなくて3アイレットの洒落たデザインだ。V-FrontやGIBSONと呼ばれるエレガントな外羽根は内羽根よりタンの手入れが簡単なのが嬉しい。羽根を左右に広げればブラッシングもできる。

(16) 大掃除終了
リネンスーツと一緒にサマーリゾート風で…と注文したお洒落な外羽根靴だが温暖化の影響で実現せず。春と秋が短く高温多湿が延々と続く日本の夏はスーツやジャケットは拷問に近い。スラックスでさえ暑すぎる。結局半袖&ショーツの毎日ではサマーシューズの出番も中々巡ってこない。

(17) ローファーのストラップ下
いよいよラストスパート、一気にローファーを4足仕上げていく。まずはこの夏の海外旅行に連れて行ったフルサドルのローファーから。ストラップの前がエプロンに縫い付けられているので反対側から指を入れてクリームを塗っていく。パリでは連日履いて酷使したが大掃除が済むと見違えるようだ。

(18) モカ部分のクリーム残り
こちらはタッセルローファー。緑の矢印はモカ部分の針穴にクリームが残った様子を示している。親子穴と同じくブラシの毛先を穴に差し込んでブラシを前後に動かせばクリームが搔き出されて綺麗になる。この靴も「夏のバカンス旅行」常連だがつま先のメタルチップのお陰で見た目は新品に近い。

(19) ローファー3兄弟
後ろに見える2足は最後に大掃除したハーフサドル。サドルが甲にくっついていないので手入れは簡単、集中力を切らさず一気に仕上げてこの日の作業は終了。陽も既に傾いていたが大掃除を終えて綺麗になった靴を前に気分は清々しい。とはいえ大掃除の済んだ靴は僅か10足…残りをいつやるかが問題だ。

(20) 淡色系
改めてワニ革の靴を見るとブラックやバーガンディもあるがキャメルやゴールド、タンなど明るい茶色が多い。ワニ革靴の旬は夏。照り付ける日差しのもと日中に履く靴という位置付けだったらしい。革見本にはグリーンやネイビーもあったが夏=小麦色のイメージが出来上がっていたと思う。

(21) 並べてみる
大掃除の後サークル状に並べたワニ革靴。2004年の9月から2012年の3月まで7年半に10足も注文している。履き心地は別としてビスポークだと「初めにデザインありき」が殆どだろう。一方写真の靴は全て「初めに素材ありき」だった。おかげで普段注文しないようなデザインに挑戦できたのは良い経験だったと思う。

今回の記事で何度も出てきた「陰干し」という言葉。以前は年に数回、晴れた屋外で天日干ししていたが直射日光を長時間当てると革を痛めたり色褪せが進み過ぎたりするらしい。かといって直射日光の当たらない屋外を探すのは大変。靴が増えるとツリーを外して外へ出す手間も重なる。

さいわい屋根付きの駐車場のおかげで靴の陰干しスペースは充分、出し入れもスムーズに行えた。家の大掃除に始まり靴の大掃除を終える頃には預けた車も返却。正月のしめ飾りを準備したら次は田舎の冬支度だ。綺麗になった車にクルーザージャケットやブーツを積んで信州へと向かった。

次回は雪はないものの東京よりぐっと冷え込む信州で新着のフィルソンアウターを試した様子を紹介してみたい。

By Jun@Room Style Store