続エドワードグリーン物語 | Room Style Store

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2024/03/09 08:11


エルメスがグリーンの旧工場であるウェストミンスターワークスを職人ごと買収したのが1990年代中頃…フランス企業の傘下に入ることを良しとしなかったフルスティック社長は同じノーザンプトンにチェルシーワークショップを開設、リスタートへと舵を切った。ただし裁判で木型#202の使用権は「エルメスにあり」と判決が出たため新たな#202を削るなど最初から茨の道だったようだ。

1995年から始まった海外生活で「英国靴と縁遠い」環境になったが嘆いても仕方ない。グリーンに手紙でMTOを依頼した。ところがいつまでたってもなしのつぶて…諦めかけた頃ようやく「工場移転で製作が遅れたが6~8週で発送する」との返事が届いた。文面からは現地の混乱ぶりが滲み出ていたが「行方知らず」状態だったグリーンが存続していることを確かめられて一人安堵したものだ。

そこで今回は工場移転期から今に至るエドワードグリーンについて当時の靴と共に紹介しようと思う。

※扉写真は名販売員レイモンドフォックス氏から届いたスペシャルオファーの案内

【工場移転期】
(1) グリーンにMTO①
海外駐在最大の恩恵は日本の高額な靴関税から解放されたこと。グリーンを手始めにジョンロブパリやオールデンオブカーメルなどメールオーダーをかけまくった。写真は届いたばかりの新生初グリーン。名前はグレンリヴェット、既に後継のウィンダミアが出回っていたがMTOなら旧作をゲットできるのがグリーンの魅力だった。

(2) 1991年のカタログから
ところが届いたグレンリヴェットはどうも様子が違う。カタログでは360度ウェルトのダブルソールなのに届いたのは270度ウェルトでシングルソール…それにスワンネックのステッチも粗めだ。拍子抜けしたものの当時はネット黎明期。カタログにメールアドレスが載っているはずもなく手紙でのやり取りは限界があったようだ。

(3) シングルモンク
グレンリヴェットと同時にもう一足注文していたのが写真のシングルモンクTroon。定番のチェスナッツより明るめのエイコンアンティーク仕上げにしたがパティーヌが今一つな印象だ。後で知ったが新工場が本格稼働するまで同じノーザンプトンのグレンソンに間借りしていたらしい。せっかくの初MTOだったがあまり履かずに人手に渡った。

【新工場移転後】
(4) 返還前の香港で買う
1998年に海外駐在を終え帰国。途中香港で2泊した。ペニンシュラでハイティーを楽しみアーケードを散策するとグリーンの店を発見。スタグスエードでなくなっていたが厚手のソックスに合うFウィズにダイナイトソールのサンドリンガムを購入した。思い返せば足掛け4年の駐在生活はグリーンに始まりグリーンに終わったようなものだ。

【グリーン新工場訪問】
海外駐在から帰国後はビスポークに傾倒、既成靴はひと段落したもののグリーンへの思いは変わらず…2000年には手紙を送って工場見学の許可を貰った。見学当日は友人と参加、まだコンパクトデジカメが珍しいようで職人さんたちは「ジャパンテクノロジー」と言っていたことを思い出す。

(5) ウェルトの縫い付け
レセプションで工場責任者から施設・設備や規模など説明して貰ったらいよいよ工場見学、クリッキングやクロージング、スキンステッチと各工程に進む。こちらは機械でウェルトを縫い付けているところ。もの凄いスピードと音に驚く。ビスポーク職人が掬い縫いするのとは桁違いだがこの工程も立派な手仕事だ。

(6) 猪の毛芯
こちらはスキンステッチ名人が糸の先端に撚り合わせる猪(豚という説あり)の毛芯を選んでいる場面。後に伊勢丹新宿の英国靴展で来日の際この職人さんと再会している。当時スキンステッチを縫える職人は2人と言われ、ロブパリと新生グリーンに1人ずつしかいなかったが今はクロケットにも居るという。

(7) 訪問記念ノベルティ
工場見学終了後に貰ったノベルティはグリーンの社名入りノート。白紙のレポート用紙は未使用のまま今も本棚に並んでいる。最後にファクトリーアウトレットのコーナーを見たがサブスタ靴は数足のみ…なんでもアウトレット靴はバーリントンアーケードの直営店2階に送っているとのこと。ロンドンに戻ってすぐ訪ねたのは言うまでもない。

【トップドロウアー発売】
(8) ラルフで買う①
市場から姿を消したグリーンの復活を印象付けたのがトップドロウアーシリーズの発売…すぐさまラルフローレンのパープルレーベルに採用されその後ユナイテッドアローズで展開されるなど靴好きを喜ばせた。写真はロンドンのボンドStにあるポロショップで買ったアトリー。グリーン直営店で買うより洒落たツリーが付くのが魅力だった。

(9)トップドロウアーMTO①
トップドロウアーのアッパーはファインブラックカーフと言われていたが、実は黒革の最高峰カールフロイデンベルグだったようだ。アトリーの素晴らしさに感動して同じ黒のセンターエラスティックをトップドロウアー仕様でMTOした。ただしトウメダリオンをラムズホーンに変更している。正にオンリーワンの「ウィグモア」だ。

(10) トップドロウアーMTO②
トップドロウアー専用ラストの#808はビスポーク靴を参照にしたとのこと。どうりで格好良いはずだ。ならばと今度は新色でアトリーを注文。革こそカールフロイデンベルグではないがヒールの飾り釘などトップドロウアー仕様とすぐ分かる。写真は脱ぎ履きの楽さから愛用し続けたせいで皺が戻らなくなった今の姿だ。

(11) ラルフのこだわり
同じトップドロウアーなのにラルフ別注は何故か格好良い。そこで手持ちのMTOトップドロウアーと比べたら秘密はソールにあった。まず①出し縫いのピッチが違う。ラルフは10SPI(1インチあたり10ステッチ)と繊細だがMTOは8SPIと粗い。それに②ソールの厚みも違う。ラルフは3/16インチだがMTOは4/16…僅かな差が見た目を大きく変えている。

(12) 直営店でサブスタ購入①
さて、こちらは工場訪問後に立ち寄ったロンドンの直営店2階で買ったサブスタンダード(サブスタと記す)。はっきりと分かるスクエアトウは新作の#606。#808のショートノーズ版といった雰囲気だ。ダブルソール+ダイナイトソールのタフなハリファックスはグリーンのソフトな履き心地が感じられず人手に渡るのも早かった。

(13) 直営店でサブスタ購入②
靴に加えてスーツもビスポークするようになると年に3回ロンドンに行くことも…グリーン直営店でサブスタ靴をチェックするのがお決まりのコースになっていった。写真はドーバーの#808。今見てもそそる顔つきだがダブルソールの返りの悪さはロイドのドーバーとは大違い、あまり履かないまま人手に渡ってしまった。
ドーバー③

(14) ロンドン直営店
こちらがかつてバーリントンアーケードにあったグリーンの直営店。地下と二階どちらも立ち寄ったことがある。2階は一時トニーガジアーノが関わったピスポークサロンだった。もう何年もご無沙汰だったが知らぬ間に直営店はジャーミンStに移転したようだ。今は空き店舗の目立つバーリントンアーケードの行く末が気になる。

(15)  直営店でサブスタ購入③
写真は新色ローズウッドカントリーカーフのドーバー。ロンドン直営店で買ったサブスタ品だ。旧工場時代と同じハーフミドルソールで返りもよくグリーンの看板ラスト新#202は足馴染みも早かった。残念ながらビスポークで似たデザインの靴を注文する度に既成靴を減らしていたので程なく旅立っていった。
ドーバー④

(16) UAでドーバー購入
こちらは銀座にあったユナイテッドアローズのソブリンハウスで購入。ブラックカントリーカーフの#808ドーバーはシングルソールでシングルウェルトかつトップドロウアー仕様の底付け。カントリーなドーバーをドレス寄りに別注したディレクションが冴えわたる一足だ。長らく手元にあったがやがて人手に渡った。
ドーバー⑤

(17) UAドーバーを履いてみる
履いた状態。足が綺麗に収まっている。初グリーンの「刷り込み効果」か「甘いものは別腹」なのかドーバーを売り場で見つけると、しかもセールになっていると必ず買っていた。コメントの下にあるドーバーカウンターは⑤、つまりこれが5足目ということだ。同じデザインの靴を一番所有したのもこのドーバーだった。

(18) ラルフで買う②
写真はトップドロウアーのグラッドストーン。黒のチェルシーより更にドレッシーな印象が強い。チェスターバリー製のスーツと最強の組み合わせだった。シンプルなキャップトウとバルモラルスタイルの履き口、底光りするカールフロイデンベルグは誂え靴にも負けていない。こちらもやがて人手に渡っていった。

(19) ラルフで買う③
こちらはパープルレーベルが別注したグリーンの新作ブーツ。名称は失念したが製造上の問題があったようだ。後日同じデザインでMTOしょうとしたらテクニカルイシューで受け付けられないという回答だった。くるぶしから上のシャフト部分がアンラインドなのでストラップの強度に問題があったのかもしれない。こちらも早い時期に人手に渡った。

(20) 直営店でサブスタ購入④
復活後のグリーンは新作靴を意欲的に発表。写真はレースステイからサイドにかけてU字に流れるパーフォレーションが特徴のライ(RYE)。バーントパインという名のカラーが新鮮だった。木型はもちろん#808を採用、シュークローゼットにスクエアトウのグリーンが並ぶ様は壮観だったがビスポーク靴と交替で人手に渡った。

(21) ドーバーをMTO
写真はポールセンスコーンで名の知れた#33ラストのドーバーをバーガンディアンティークでMTOしたもの。既にネット環境は充実、メールに写真を添付して詳細を書き込めば狙いどおりの靴が完成した。ポールセンスコーンを真似てアッパーをカーフにしたが皺の目立たないグレインレザーの方がよかったと反省…後年人手に渡っていった。
ドーバー⑥

【再工場移転を経て】
(22) 3足目のサンドリンガム
#808ラスト以降、グリーンとは縁遠くなっていったがフルスティック社長の他界は耳にしていた。それより驚いたのが昔見学したカウパーStの工場がクリフトンヴィルStに再移転したことだ。靴の増産には手狭だったのかもしれない。写真はその最新工場で作られたウィスキーコードバンのサンドリンガム。NYのセレクトショップLeffotの別注だ。

(23) 初バタフライローファー
こちらも同じくNYのLeffot別注、ウィスキーコードバンのバタフライローファーになる。ギンピングとパーフォレーションが入る独特のデザインは高感度なセレクトショップならでは。昔のビームスを思い出した。日本に発送しないLeffotの靴を買うにはアメリカに親戚か知り合いがいるのが一番だ。

(24) 現在のグリーンファミリー
写真は今も手元に残るグリーンファミリー。全部で14足と最盛期の半分以下に減っている。一番多いのが4足の外羽根、一時凝っていたローファーは意外にも2足しかない。田舎暮らしに最適なのは外羽根、ローファーは東京だとちょっとした外出に便利だが田舎暮らしには不向きなことが良く分かる。

それにしても最盛期に6足(実際は7足)もあったグリーンのアイコン、ドーバーも今や1足を残すのみ。やはり時代と共に靴の好みは変わるのを実感している。昔の画像を探し出して(18)に掲載したトップドロウアーのグラッドストーンは今見ても格好良い。だがもし今も手元にあったとしたらきっと履かないだろう。

インスタグラムで仕事用のスマートな内羽根靴を見るにつけ「おおっ格好良い。スーツにもジャケパンにも合いそうだな…」と思う一方、仕事から離れて第二・第三の人生が始まった時にも履けるかな…とつい我が事のように想像してしまう。そんな靴をグリーンで探すと一周回ってやっぱりドーバーになるのだ。

By Jun@Room Style Store