John Lobbトランクショウ | Room Style Store

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2024/03/24 17:34


巨星墜つ…世界最古の紳士衣料品店ブルックスブラザーズの経営破綻が発表されたのが2020年7月のことだった。コロナ禍の影響は凄まじく英国最古の靴屋フォスター&サンが倒産したとの一報も入り、仲間内では服飾産業の行方を案じていた折も折、ロンドンの老舗注文靴屋ジョンロブから一通の封書が届いた。

手紙によれば「一足で15%、二足で25%オフのスペシャルプライスを用意しました」とのこと。店を開けられないため木型のある客に絞って注文を取ったのだろう。後で知ったが担当職人のティームはレイオフとなり本を革で装丁する仕事をしながら待機していたそうだ。早速応援を込めて二足注文を入れた。

あれから4年、木型があるとはいえ対面なしの靴製作には限界があったと思う。特に二足目のローファーは精度の問題もあって作り直すことになった。そこで今回は心機一転、再採寸と旬のサンプルシューズを拝見しにジョンロブのトランクショウを訪問した様子を紹介したい。

※扉写真はジョンロブのカタログ。

【再採寸】
(1) トレース
ジョンロブ一足目の木型はエプロンダービー。厚手のソックスに合わせて大きめに作られていた。その木型を元にハーフサイズ小さめのローファーラストを削ったのだから誤差は尚更大きかったのだろう。コロナ禍さえなければ対面で注文、その場で再採寸していただろうに…そう思うと残念でならない。

(2) メジャメント
初回以来久々、ジョンロブ伝統の紙テープによるメジャメントを再び体験した。テープが合わさった部分を折って手で端をちぎる。こうして切れ目を入れることでメジャーの読み間違いや名簿への転記ミスはなくなる。ある意味賢いデータ保存といえよう。しかもこの紙テープ一本で3箇所を採寸するという。

(3) 触診
触診して骨の出っ張りや肉付き、踝の周りなど確認していく。利き足である左足の方が「甲が高い」と言っていたので視診も加えながら精度を高めていったようだ。因みに素足で計測したのは当日厚手のソックスを履いて行ったため。「もし薄いソックスを履くなら靴下を脱いだ方が良い」と気合いの入り方も違う。

【再採寸を終えて】
採寸後は今のジョンロブの方向性が垣間見えるサンプルを見学。ティーム加入後のクレバリーのように意欲的なサンプルが並び始めた感がある。

(4) 新作カジュアル①
ジョンロブ175周年記念第二弾はサビルロワのヘンリープールとのコラボ。センターエラスティックにイミテーションシューレース入りのクレセントブローグ風ローファー。デザイン性が高く従来のジョンロブとは異なる新機軸だ。シューツリーもヘンリープールのカンパニーカラーであるグリーンを採用している。

(5) 新作カジュアル②
こちらはスエードのヴァンプローファー。コバの張り出しが極端に少ないところを見るとオペラパンプスと同じ底付けかもしれない。邸宅で寛ぐ紳士のルームシューズのようなものか…。世の中はコンフォートかつカジュアル化にシフトしている。時代の要請なのか今回はローファーが目立っていた。

(6) 新作カジュアル③
今回一番そそられたジョンロブのボートモカシン。ビスポークのデッキシューズとは贅沢の極みだ。勿論底付けはマッケイ、張り替えは一度だけ?などと思うのは野暮、これを注文する紳士はリペアのことなど気にしないだろう。尤もアメカジ派の自分にはトップサイダーの方が性に合っているかもしれない。

(7) 新作カジュアル④
前回の東京トランクショウでも見かけたスエードのイミテーションフルブローグのタッセルローファー。ジョンロブには珍しいソフトスクエアなトウが洒落ている。べベルドウェストや張り出しの少ないコバと相まってドレッシーな雰囲気をチノパンに素足で履いたら格好良さそうだな…と夢想してしまう。

(8) ノルウィージャン
欧州の由緒ある注文靴屋なら大抵サンプルを置いているノルウィージャンエプロンダービー。勿論ジョンロブパリもよく似た靴をサンプルで用意している。今までデザインや革を少しずつ変えて短靴で6足、長靴で3足もオーダーしたのにこのサンプルを見つけて写真に収めるのだから余程好きなのだろう。

【参考資料①】
ジョンロブパリのノルヴェジアン
こちらがジョンロブパリのノルヴェジアン。スプリットトウ部分はスキンステッチの畝が出ていない。一番最初に注文したジョージクレバリーのスプリットトウと同じ手法だ。一方ライトアングルのモカステッチはドーバーではなくウェストンのハント風。イギリスとフランスのやり方が程よくミックスされている。

【参考資料②】
〜スプリットトウの違い〜
ドーバーに近い裂け目に畝が見えるのが左のフォスター&サン。右はジョージクレバリー、上のジョンロブパリのサンプルとよく似ていて裂け目が直線でスパッと切れたような仕上がりだ。こうして見るとエプロンダービーと呼ばれるこの手の靴が如何に完成されたデザインかよく分かる。

(9) プレーントウ
3-eyeletのHilo(ハイロー)と気をてらわず直球ど真ん中のプレーントウ。いざ靴をビスポークするとなると穴飾りやトウシェイプなどあちこち手を加えて派手なブローグ系やストラップ系が出来上がりがち。かつての自分がそうだっただけに余計シンプルなスタイルに心惹かれるのだろう。

(10) アデレイド
こちらは内羽根のパンチドキャップトウ。アイレット周りを囲むアデレードタイプの穴飾りがアクセントになっている。それにしてもサンプルとはいえなんともスマートなフォルムだ。内羽根靴をオーダーすることはないだろうがもし注文することになったら真っ先に候補に上がるに違いない。

(11) ダービーセミブローグ
こちらは外羽根のセミブローグ。履き口の綻びから察するにかなり古いサンプルのようだ。若い頃は内羽根靴ばかり注文していたがスーツはおろかジャケパンさえ着る機会がなくなった今「もっと外羽根靴をオーダーしておけばよかった」と後悔しきり…若いカスタマーには是非外羽根を薦めたい。

(12)ブラックシューズ
ここからはジョンロブの真骨頂、黒靴のサンプルだ。カールフロイデンベルグのボックスカーフ(黒)を在庫に持つシューメーカーはそう多くないはず。靴好きの知り合いに聞くと運良く素材が手配できたとしてアップチャージは8万円とのこと。追い金なしのジョンロブは良心的だ。尤も一足の値段もかなりだが…。

(13) サイドエラスティック
こちらは甲下の切り返しから履き口までが長く取られたサイドエラスティック。ゴム部分に蓋のないタイプはパープルレーベルのアトリーを彷彿とさせる。それにしても素晴らしい出来栄え、スーツを毎日のように着ていた時代に戻るこができたならきっと注文したに違いない。

(14) タッセルカジュアル
作り直しとなったタッセルローファーのロブ見本は履き口の紐が三つ編みではないシンプルな作り。ラストメーカーのティームによれば今回再採寸した結果を元に今あるカジュアルの木型を修正するか新たに削るか検討するようだ。捨て寸は短くなって写真のようなラウンドトウにすれば踵の抜けも解消されるはず。

(15) バックルカジュアル
こちらはクレセントブローグのフリンジ付きバックルローファー。アメリカのビジネスマンが好んで履きそうなタイプだ。コロナ禍を乗り越えてトランクショウを本格的に再開したジョンロブ。注文靴一本でやっていくことが如何に大変か…多少なりとも分かるだけに絶えず進化しようとする姿勢が嬉しい。

(16) サイドレース
思ったよりデザインがモード寄りなサイドレース。シンプルなブラックといえどクラシックなスーツに合わせるよりデザイナースーツにノータイの方が様になりそうだ。ビスポーク靴をオーダーする機会が減っても良い靴を見ると目の保養になるしどんな服と合わせようかと考えることで脳の活性化になる。

(17) シューバッグの記事見本
ジョンロブで靴を誂えるとゴージャスなシューバッグを追加注文できる。勿論ハンドメイドだがそこはキングオブシューメーカー、既成靴が買える値段だ。バッグ本体の布も無地に加えてツイード調やチェック柄など種類が増えていた。残念ながら一足目で頼んだマイシューバッグは家の中で出待ち状態だが。

(18) タッセルの色
コロナ禍で2足注文した時はシューバッグはパスしたがもしオーダーするとなると新たな生地に加えて刺繍やジッパーに付くタッセルを15色の糸から選べる。なんともワイドなセレクションだ。オーナーのイニシャルを入れる際の字体も含めると靴以上に注文で悩むことになるかもしれない。

(19) シューバッグ見本
シューバッグの見本。一番右のグリーンにイエローのタッセル付きはヘンリープールとのコラボ専用。プールでスーツをオーダーした人ならばガーメントケースの色と同じだ…と直ぐに気付くだろう。そういえば昔ヘンリープールで来日したカッターのデイビッドもジョンロブの黒靴を履いていたっけ。

【参考資料③】
〜ヘンリープールのハンガー〜
ガーメントケース同様ハンガーに付くヘンリープールの文字板もやはり緑色に黄色(金色)の文字が入る。そういえばヘンリープールではスーツを三着オーダーしたが今はほとんど着る機会がない。せめて一着ツイードジャケットでもオーダーしておけばよかったと後悔している。

(20) 二ューロシアンレザー
ベーカー社のニューロシアンレザー。今やジョンロブの革見本に並ぶくらいだからスタンダードになりつつあるのだろう。沈没船カタリナ号と共に沈んだロシアンレインディアレザーは今も引き揚げが難しいところに眠っているらしいが潜水夫のイアンスケルトン氏は既に引退。再引き揚げは難しいのかもしれない。

(21) ホテルを後に
今回は会場を昔懐かしのホテルオークラに戻してのトランクショウだった。ヘンリープールもそうだがロンドンの老舗と言えば昔からホテルオークラが思い浮かぶ。尤も旧館は既になく、オークラタワーは見つけにくい。うっかり予約時間に遅れてしまうなどお登りさん状態になってしまった。

実は2008年のリーマンショック時、フォスター&サンからビスポークシューズのセールオファーが来たことがある。担当の松田さんの申し訳なさそうな様子に応援の意を込めて注文したことをふと思い出した。そういえば当時のフォスターも今のジョンロブ同様ビスポークがメインだった。

その後2018年に日本の商社と組んで既成靴ビジネスを始めたフォスター&サンだがコロナ禍であえなく倒産。工場はおろか店舗までもが霧散した。件の商社は日英共に商標権を持つが所詮宝の持ち腐れ。一方顧客の木型を引き継いだCanons_bespokeはフォスターの屋号を継げずにいる。

あの時商社と手を組まず、ビスポークメインでコロナ禍を凌いでいたらジョンロブやジョージクレバリーと共に今もロンドンの名店として一翼を担っていたのでは…そんな思いがよぎる。特にビスポーク一筋で靴を作り続けるジョンロブを見ると何ともやるせない気持ちになってくるのだ。

By Jun@ Room Style Store