2024/06/30 08:22

暫く前から注目していた靴職人の高宮 遼さんからお話をいただきアトリエを訪れることになった。小田急線沿線の中でも一部を除き全ての列車種別が唯一停車する新百合ヶ丘駅がアトリエの最寄り駅だそうだ。新宿から快足急行で25分弱、途中3駅に停まるものの25分弱で駅に到着。住所はいつの間にか東京を離れ川崎市麻生区に入っていた。
@Barbarole_shoemaker(インスタのアカウント)に載ったローファーに惹かれたのが始まりだが有楽町阪急で高宮さんのトランクショウが開かれた際アポなしで面会、貴重な時間の中対応していただいたのがきっかけだ。フィレンツエ修行時や革素材で話に花が咲き「一度アトリエにお邪魔します」と約束したものの中々実現しないままだった。
そこで今回は高宮さん直々のお誘いでアトリエを訪問した様子を紹介してみたい。
※扉写真は新百合ヶ丘駅改札の様子
(1) スイーツ選び

アトリエに訪問する時はスイーツ持参がマイルール。高宮さんからは「美味しいコーヒーをエルメスのカップでどうぞ…」と嬉しい申し出があったので駅前のショッピングモールで品定め。午後の約束だったためか既に売り切れのケーキもちらほら。フィレンツェのあるトスカーナは栗の名産地…モンブランをテイクアウトした。
(2) 駅のロータリー

階上駅の改札から続くデッキの下には立派なロータリーがある。大時計は間もなく約束の1時を指している。新百合ヶ丘駅は京王相模原線と接続する小田急多摩線と小田急本線の接続駅として開業、隣の百合ヶ丘駅とは1㌖しか離れていないが駅前の開発や整備が進み利便性の高い駅となっている。
(3) 駅から続くデッキ

綺麗に整備されているデッキ部分。植えられている木はイタリアの田舎を訪れた人ならピンとくるオリーブの木だ。秋には実を付けるそうな。フィレンツェ帰りの高宮さんとの待ち合わせにはピッタリのロケーション…近くには図書館やシネマホールなど様々な施設があるせいか平日の昼時だというのに大勢の人で賑わっている。
(4) 待ち合わせ場所

こちらが平日の新百合ヶ丘駅。天気も良く半袖姿の人もちらほら見かける。初めてお会いしてから数年経つが高宮さんとはトランクショウで一度お会いしているので顔を見ればすぐに分かるはず…何よりご自身のブランドBarbarole(バルバローレ)のロゴに描かれているように口髭の似合う紳士なのだ。
(5) 緑と坂の街

アトリエに向かう道。遊歩道の植栽は手が行き届いている。高宮さんから聞いて公式HPを調べるとバルバローレのある川崎市麻生区は男女ともに長寿日本一になったそうだ。緑の多い街並み、緩やかな坂がある街並み、田畑や緑地など豊かな自然が残る環境が健康に良い影響を与えている可能性が指摘されていた。
(6) アトリエ到着

ご自宅を改装されたアトリエの入り口。特に看板は設けられておらずアポイントメントをとったものだけが訪れることのできる場所だ。勤務されていた設計会社を退職後、国内で3年間製靴技術を学び、更なる高みを目指してフィレンツに渡りロベルトウゴリーニに師事しコロナ禍の2020年に帰国してアトリエを開いたそうだ。
(7) 顧客のラスト

顧客のラストが並ぶ棚。ラストは木製とプラスチックがあるが高宮さんは靴が完成して木型を引き抜くことを考えるとプラスチックの木型が扱い易いと話していた。付属のシューツリーだけは外注に出すそうだがパターンメイキングからクリッキング、クロージング、ボトミングまでご自身でこなしているとのこと。
(8) ワークスペース

(9) ミシン

靴工房で見かけた腕ミシンやフィルソン中目黒で知った八方ミシンなど工業ミシンには色々な種類があることを知ったがこちらはポストミシンと呼ばれるものだそうだ。下から突き出ているポスト状の先端に下糸用の釜と下送り機構が組み込まれているもので製品を立体のまま縫えるのが特徴とのこと。
(10) 革漉き機と高宮さん

こちらの小さな機械はNIPPY(ニッピ:メーカー名)の革漉き機。アッパーを作る際、重ね縫いをする部分が厚くならないよう端を薄く漉くための機械。昔ジョンロブパリのアトリエを見学した際はナイフで漉いていたが最近は便利な機械がある。アトリエの主、高宮さんと一緒に記念撮影してみた。
(11) サンプルと革素材①

ここからは恒例のサンプルシューズ紹介、まずはタッセルローファー。白いモカ縫いのステッチや出し縫いが華やかだ。エルメスも採用するデュプイのトゴをアッパーに用いるなど素材の良さが引き立つ。履き口や甲部分の編み紐は適度なボリュームがありタッセルも大ぶりとイタリア男性が好む力強さもある。
(12) サンプルと革素材②

こちらは如何にもアメリカンなペニーローファー。素材はイタリアのシボ革カーフ、一見コールハーンやバスかと見紛うほどだが出し縫い部分やモカステッチ、細部を見れば見るほど手縫い靴のオーラが漂ってくる。最初に紹介したタッセルローファーも良いがこちらのペニーローファーも魅力的だ。
(13) サンプルと革素材③

こちらはコンビのローファー。フランスのボックスカーフとゴートのコンビだそうな。高宮さんの作る靴は師匠に当たるロベルトウゴリーニより英国調。コードウェイナーズで英国式製靴術を体得したギルドの山口千尋さんが主催するサルワカフットウェアカレッジで靴作りを学んだ経験が生きているようだ。
(14) サンプルと革素材④

こちらは(11)のアメリカンなタッセルローファーと違って如何にもスクエアトウのイタリアンな顔つき。高宮さんによればイタリアの男性はベヴェルドウェストの華奢な底付けよりコバが張ったヒールの大きな靴が好みだそうだ。とはいえ高宮さんはウェストがキュッと絞られたグラマラスな靴も見事にこなす。
(15) サンプルと革素材⑤

紐靴の中で異彩を放つコンビネーションフルブローグ。ファブリックは80年代の2ワラントバブアーの生地だそうな。オーソドックスな靴を一通りオーダーすると素材に拘った靴が欲しくなるもの、高宮さんは「生地の持ち込みで靴を作るのも面白いかもしれませんね…」と話していた。
(16) ドレス靴

こちらはドレッシーな黒靴。右の4アイレットチャッカブーツは有りそうでないタイプ。普段はパンツの下に隠れてしまうが、座って何気なく足を組んだ時などちらりと見えるのが格好いい。左の外羽根キャップトウはオーソドックスなスタイル。イタリアというより英国ビスポーク靴に近い印象を受ける。
(17) アメリカンな靴

こちらはウイングタッセル。ジョンストン&マーフィーやフローシャイムを彷彿とさせるが切り返しや編み紐、トウメダリオンなど随所に高宮さんの感性が盛り込まれている。ネイビーブレザーとグレートラウザーズ、ボタンダウンシャツと小紋タイの組み合わせにもぴったり合いそうだ。
(18) 革見本

靴のサンプルで紹介した革を含め色々な素材を並べたところ。アップチャージでイタリア製のコードバンやポロサスクロコダイルもオーダーできるそうだ。最近のビスポークカスタマーは1足目から好きなデザインと好きな素材でオーダーされることも多い。サンプルシューズにどんな革を使うかも靴職人の腕の見せ所だ。
(19) 靴学校で優勝した靴

写真はサルワカフットウェアカレッジ時代の作品、「今見るとへたくそですね…」と話していたが勾玉型のパーフォレーションを使うなど今に通ずる作風が垣間見える。レディスのギリーブーツだそうだがレースステイ縁の黒いテープがフォーマルな雰囲気を醸し出す。靴学校で最優秀賞をとったそうだ。
(20) 駅へ続く階段

アトリエを後に帰路につく途中。高宮さんは「適度な坂があることで健康な体を維持できるのでは…」と話していたが帰り道の階段はかなり長い。だが階段の上り下りは立派な運動、毎日数分間行うだけでも筋肉や心臓血管の健康を維持できるそうだ。なるほど麻生区が長寿なのもその辺に理由があるのかもしれない。
(21) BARBAROLEの冊子

高宮さんのBarbaroleシューメーカーが他と違うところはこうした立派なブローシャーを用意しているところ。衣類や傘などの小物と組み合わせた美しいサンプルシューズやフィレンツェ街並みを切り取った写真はデザイン性が高く高宮さんの世界観を訴求するビジュアルな小冊子に仕上がっている。
Barbaroleの料金は現在1足目が短靴で34万円に長靴が36万円、2足目以降は2万円引きとなる。既成靴と比べれば高価だが「自分だけの靴を誂えてみたい」と思う客にとって欧州の誂え靴より言葉の壁もなく値段もリーズナブル、しかも仕事が丁寧で仕上がりも美しいとなれば日本の誂え靴屋に注目するのも納得だ。
当ブログで紹介した菱沼さんはじめ日本の新世代靴職人は皆腕は一流、紳士靴の本場欧州に負けない仕上がりだ。あとはよりよいフィッティングと個性…になろうか。高宮さんの作る靴にはギルドで学んだイギリス仕込みの技とイタリアで学んだ感性に日本のものづくりが融合され他とは異なる個性も感じられる。
しかも高宮さんは靴の仮縫いを2回行うとのこと。今後もBarbaroleのさらなる飛躍に期待したい。
By Jun@Room Style Store