服のレストア(スーツ編) | Room Style Store

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2024/09/21 10:03


前回の服のレストア(上着編)では新品の輝きを取り戻した1994年アメリカ製ブルックスブラザーズ特製ツイードジャケットを紹介した。予想以上の出来にこれなら二匹目のドジョウを狙えると今度は1992年アメリカ製のポロスーツを持参、もちろん依頼先は前回同様「ママのリフォーム」だ。

スーツは組下のパンツが先に傷むもの。スーツを注文すると替えのパンツを追加しては…とテイラーから勧められるのもそれが理由だ。ベルトループ有りとベルトレスにしてみたりプレーンフロントとプリーツ付きにしてみたり。上半身より動きの激しい下半身ゆえ寿命が短くなるのは仕方ない。

そこで今回は組下のパンツを中心にスーツのレストアを紹介しようと思う。

※扉写真はレストアを終えたポロスーツ

(1) レストアを終えたスーツ
写真はレストアを終えて戻ってきた1992年秋冬もののポロスーツ。もちろんアメリカ製で柄はクラシックなグレーに生成りのチョークストライプ。米国式の三つ釦段返りラペルやセンターベントと英国式の胴絞りや4つ釦の袖がミックスされたスタイルはラルフローレンの世界観がよく表れている。

(2) 上着の特徴①
今時のハイゴージなクラシコイタリア風ラペルと違ってゴージラインはやや下がり気味。ソフトに返ったワイドなラペル(下襟)と首回りに吸い付くような上衿(鎌衿)がポロのスーツを特別なものにしている。名うてのモデリストであったレオロッジ氏のフィッティングが随所に反映されている。

(3) 上着の特徴②
ラペル下には第一ボタンのホールが見え隠れしている。ブルックスブラザーズの段返りが既製服らしい仕上がりなのとは対照的にポロの段返りは毛芯を用いた絶妙なカーブが奥行きを感じさせる。因みにシャツはブルックスブラザーズ、タイとチーフは同じポロレーベルを組み合わせている。

(3) ゴージライン
クラシコイタリアの影響で長らくハイゴージかつ肩のラインと平行に近いものが主流だったメンズのテイラードもの。最近はゴージの位置が低くなりハの字形に傾斜したジャケットも見かけるようになった。限界に達したハイゴージへの反動だろうか、再びこのポロスーツの出番が来たようだ。

(4) 肩線
前肩が多いとされる日本人にもフィットするポロのスーツ。前向きのアームホールに合わせて肩線も前方にカーブしている。いっときサルトリオやベルベストなどイタリアの既製服に見られた肩線が後ろにずれたセットバックショルダーも前肩補正に向いているといわれるが最近は見かけない。

(5) 背裏交換
フルライニングのスーツで一番擦れなど傷みが出やすいのが背裏。思い切って交換することにした。例によって同色のライニングは見つからず…グレーの中で一番色味の近いものを買ってママのリフォームに持ち込んだ。写真で見ると背裏が両脇と微妙に異なるのが分かるのではないだろうか。

(6) ユニオンチケット
内ポケットの中で擦れたのかACTWU(ユニオン)チケットの印字は掠れて読みにくい。とはいえアメリカ製の証しでもある「合同衣服繊維組合チケット」があるとなしでは大違い。1995年を境にチケットが変化しており年代特定の節目となるからだ。またこうして読み取れるうちに記録するのも重要だ。

(7) ブランドタグ①
写真は右の身頃内側に縫い付けられたブランドタグ。コバのステッチは手縫い感が滲み出ている。もし裏地を替えるとなるとこのタグも一旦剥がして再び縫い付けることになる。手縫いでとリクエストすれば工賃は更にアップだろう。手縫いスーツのレストアはコストがかかるのだ。

(8) ハンガータグ
MADE IN U.S.A. の小さな文字入りのハンガータグ。ここもアメリカ製と分かる重要なポイントだ。今や製造業は国境を越え「どこで作られたのかは問題ではない」といわるがビンテージ衣類の世界では「いつどこで作られたものなのか」は重要なポイント。実際アメリカの中古衣類はアメリカ製が売れ筋だ。

(9) フラップ裏
フラップ裏の星コバステッチはサビルロウと同じく手仕事のようにみえる。念のため上衿裏や下襟のラペルをめくってチェック、さらに前身頃も観察したがミシンによるAMFステッチではなさそうだ。1992年といえばパープルレーベルが生まれる前、当時はこの青タグポロラルフローレンが高品質の証しだった。

(10) レストア済の組下①
こちらはスーツのトラウザーズ(組下)。汗染みが残りやすいので総裏地替えのフルレストアを行った。キュプラと違いコットン裏地はそっくりな素材が結構ある。気になる工賃だが腰裏からポケット袋やジッパーの前開き裏に股下のシック(オリジナルにはないもの)まで含めるとリーバイスのLVCが買えてしまう。

(11) レストア済の組下②
完成した組下。裏地は外して型紙として代用、パーツを複製したりポケットを袋縫いして装着していく。因みにポロスーツは組下にサスペンダーボタンが付くがこのスーツでは購入時にサスペンダーボタンが予備で付いていた。レストア後に取り付けてポロスーツらしく仕上げてみようと思う。

(13) レストア済の組下③
写真は新たに付けた股下のシック。足さばきによる股ずれで生地が傷むのを軽減したり汗を吸い取る効果があるそうな。ママのリフォームでは前シックと尻シックの両方を兼ねた大型のものが付けられていた。因みに取付料金は2,200円、大切なスーツの組下なら予めシックを付けるのも効果的だと思う。

(14) ウォッチポケット
ポロラルフローレンのパンツはサビルロウ仕立て同様フォワードのプリーツにこだわる。しかもウォッチポケットに丁度外側のプリーツが掛かるデザインが格好いい。この部分にフラップと留めボタンが付くとラルフワールド全開だがこちらはスーツの組下…ややシンプルな仕上がりのようだ。

(15) サスペンダー釦の取付
写真はサスペンダーボタンの入っていた袋。ボタンを出していざ取り付けようとしたがはて…どこにサスペンダーボタンを付ければいいのやら。そこで手元にある1995年アメリカ製ツイードのポロスーツを引っ張り出すことにした。因みに袋のポロポニーだが昔からのポロファンには懐かしい絵柄ではないだろうか。

(16) 腰裏の位置(参考)
まず計測したのが腰裏中央のボタン位置。二つのボタンの間隔は10㎝と結構広い。ここが狭いと股上が攣れた感じになるので敢えて広くとったのだろうか。ラクトボタンのようなクリーム色の表面にはブランドの名前が、穴と穴の間には糸が収まる溝が彫られている。ボタン一つといえどビンテージポロには大事なディテールだ。

(17) 脇裏の釦位置
一方こちらは両わき腹のサスペンダーボタン間隔を測ったもの。結果は8㎝とやや狭い。前かがみになったりした際にサスペンダーの持ち出しが邪魔にならないようにするためかパンツのクリースが綺麗に出るようにするためか。今度サビルロウのスーツを出してボタン間隔を調べてみたい。

(18) 組下への取付①
ここからはフルレストアを終えた組下へのサスペンダーボタンの縫い付け。まずは腰裏中央から裏地が重なって厚みがある部分にボタンを縫い付ける。針が通り難いのが厄介だがひと針ひと針丁寧に縫っていく。因みに直し店のサルトを見るとボタン持ち込みの場合、サスペンダーボタン取付(6個)取付で2,200円とある。

(19) 組下への取付②
続けて両わき腹へのサスペンダーボタン取付。間隔は8㎝だが取付位置は左右どちらも内側のボタンが内側のプリーツ真上に来るのがポイント。まず内側のボタンを縫い付けてそこから8㎝間を開けて外側のボタンを縫い付ける。プロならもっと手早くできるのだろうが丁寧にやるとどうしても時間がかかる。

(20) 釦付け終了
全てのサスペンダーボタンが縫い付けられた状態。前開きの持ち出し用ボタンのすぐ横にサスペンダーボタンが来るのもポロのパンツではよくあること。生まれ変わったように綺麗になった組下を見ていると「時間とお金をかけた甲斐があった…」とつくづく思う。お気に入りのTV番組「名車再生」の影響だろう。

(21) 黒紐靴
レストアを終えたスーツに合わせたい靴といえばやはり黒のオックスフォード。それもフォーマル過ぎるストレートキャップよりほんのり華やかなパンチドキャップトウがいい。ワインハイマーの黒革を使ったフォスター&サンの靴は数ある黒靴の中でも一番登場回数の多い靴。靴好きに薦めたいデザインの筆頭だ。

(22) 上着
平場に置いたスーツの上着。ゴージの位置や下がり具合は正に90年代風、当時流行っていたイタリアンデザイナーのスーツはもっとゴージが低い位置で角度も急だったが今では古臭さを感じる。一方でポロはクラシックから外れないスタイルを貫いたことで今こうして見ても古さを感じさせない。

(23) 組下
組下のパンツはワタリの広いバギー風。2プリーツのゆったりとした腰回りが特徴だ。1990年のハケット上陸から始まった細身のパンツはクラシコイタリアの台頭で更にスリムになりインコテックスなど美脚パンツが主流だったが最近はワイドなパンツが復権…ゴージライン同様行き着くところまで行き着いた反動か。

(24) 蘇ったスーツ
レストアを終えたスーツはこの後準備中のVintage Room用の商品となる予定。アメリカ国内では80年代から90年代にかけてのポロ製品がビンテージクローズとして人気が高い。2018年頃からビンテージポロのアイテムを着て集う熱狂的なファンが起こしたムーヴメントのLO-lIFEがその発端かもしれない。

誰にでもフィットする服をその場で買ってすぐに着られるレディメイドが持ち味のアメリカントラッドと伝統的でくびれたウェストや胸のドレープなど着手に沿った仕立服をルーツにもつブリティッシュトラッド。その両方を上手くミックスさせたポロスーツは上の写真でも分かるように見栄えがいい。

仕事で着る機会がなくなった今も親しい人との会食や家族での祝い事など稀にスーツを着ることがある。そんな時クローゼットから出して着たいと思うのはサビルロウのヘンリープールやハンツマンといった老舗の三つ揃えでもフィレンツェのサルトで仕立てたスーツでもなく実はポロのスーツなのだ。

By Jun@Room Style Store