ガーランドシャツのその後 | Room Style Store

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2025/04/26 20:47


2020年コロナ禍によって破産したブルックスブラザーズの傘下を離れ自主再建したガーランドシャツカンパニーの復調ぶりを伝えたのが2023年12月の記事:ガーランドのシャツ前篇と翌年2024年1月のガーランドのシャツ後編だった。あれから約一年半が過ぎた今、気になる情報が入ってきた。

百貨店勤務の知人によれば日本のブルックスブラザーズで扱っている米国製ボタンダウンシャツがガーランドから違うファクトリーに替わるとのこと。既に工場は閉鎖されているらしい。コロナ禍を乗り越え2021年10月に再開し翌年の一周年記念式典を誇らしげに行った会社に一体何があったのだろう。

そこで今回はガーランドシャツカンパニーの現在地を探ってみたい。

※扉写真はアメリカ国内新聞の切り抜き(ブルックスブラザーズのボタンダウンシャツの広告)

(1) ブルックスブラザーズ時代
ガーランドシャツカンパニーの歴史は古い。1954年にブルックスブラザーズがシャツ工場をノースキャロライナのガーランドに設立したのが始まり。以来自社製品を中心にオーダーメード品や様々なブランドのシャツを手掛けてきたそうだ。写真は1990年初めてニューヨーク本店で買った旧ロゴのボタンダウンシャツ。

(2) Makersの意味
ブルックスブラザーズはシャツの他に重衣料やネクタイの自社工場を所有しており同じNYにありながら自社工場を持たないポロラルフローレンやポールスチュアートとそこが違っていた。特にシャツとネクタイのタグにはブルックスブラザーズの名と共に自社工場製を意味するMAKERSが必ず入っていた。

(3) ネクタイのタグ
因みにネクタイはマンハッタンの隣、ロングアイランドの工場で内製していた。シャツ同様他の多くのブランドのタイを手掛けアメリカ製をアピールするのに一役買ったそうだ。中でも小さくて構造が複雑なボウタイが好評だったが多くの顧客が「生地が少ないのに値段が高い理由」を理解しないため価格を抑えていたそうだ。

(4) コロナ禍の影響
2020年コロナ禍によりブルックスブラザーズが破産。ガーランドの工場も即座に閉鎖された。地元紙は「長年続いた巨大製造業の影は薄れ町に大きな穴が開いたようだ」と評している。写真のような定番オックス地のBDシャツでさえ半値以下の在庫処理が始まりアメリカ大統領のシャツを仕立てた現場も終焉を迎えていた。

(5) ガーランド工場の復活
地元では新会社を設立、25万ドルの助成金を活用して2021年10月にガーランドシャツカンパニーを復活させた。元従業員を復帰させ眠れる巨人を蘇らせた功績は一周年記念式典で「労働者の粘り強さと決意を示す傑出した例」と讃えられた。日本でも新生ガーランド社のシャツをSHIPSがサウスウィックネームでいち早く扱っている。

(6) ブルックスジャパンでの取扱再開
パンデミックが収束して店舗が再開したブルックスブラザーズ青山を訪問。日本製のBDシャツが並んでいたが新生ガーランド製のBDシャツも売り場に戻ってきた。タグはコロナ前と微妙に異なるが同じ設備で同じ熟練職人を擁する工場ならでは。昔と寸分たがわぬ新生ガーランドシャツの再販を喜んだものだ。

(7) 6つボタンの復活
日本サイドは更に80年代終わり頃まで標準仕様だった前ボタン6つのBDシャツをガーランドに復刻させるなど様々なアーカイブコレクションを発表しながら旧来のブルックスファン回帰を促していた。米本国のブルックスブラザーズが「既存の顧客を大切にする」戦略を取ったのと歩調を合わせたのだろうか。

(8) 6つボタンとは?
NY本店を訪れた1990年はボタンダウンシャツの前ボタンは既に7つに変わっており残念ながら6つボタンは買えなかったが2000年代に復刻されている。その復刻版で比べた写真をよく見て欲しい。台襟ボタンから一番下のボタンまでスタンスは同じだが左(ピンク)が7つボタンなのに対して右(ブルー)はボタンが6つしかない。

(9) ボタン間隔の違い
残念なのが新生ガーランドが作った前ボタン6つのシャツは台襟ボタンから一番下のボタンまでの長さを5で割ってボタンを等間隔に6つ付けたものだったということ。昔の6つボタンシャツは台襟ボタンと第一ボタンの間隔が他より長く取られている。写真を見れば一目瞭然だ。当時の別注元伊勢丹が細部に拘った賜物だろう。

(10) アイクベーハーのシャツ
コロナ禍より前に工場をアメリカ国外に移転したアイクベーハー。コロナ明けに日本サイドから米国製アイクベーハーをというリクエストがあったのか白羽の矢が当たったのが新生ガーランドだった。MADE IN GARLANDの文字が示すように襟のデザインは小ぶりなアイクより大ぶりなブルックスに近い。

(11) ガーランド工場
人口七百人未満のサンプソン郡に属する小さな町ガーランドにとって写真の工場は正に巨大製造業、取材した地元紙サンプソンインディペンデントは創設メンバーの「毎日採用を行っており3年目末(2024年末)までに180名以上の採用が見込まれる」という発言を掲載していた。実に四人に一人が工場関係者ということになる。

(12) ガーランド工場の閉鎖
てっきり順風満帆かと思っていたガーランドシャツの経営だが冒頭の知人の言葉が気になりネットで検索すると「閉業」と出ている。詳しく調べると2023年8月までの2年間は再利用助成金により(返済が)免除されていたため成功したように見えたが長期的には苦戦を強いられていたようだ。

(13) デレク•ガイ氏のレポート
工場のエステート(不動産関連)をネットで調べると既にSOLD(売却済)と判明。地元紙も「工場買収を希望する複数の企業と話し合い1社と取引が完了に近づいている」と報じていた。有名なメンズウェア・ライターのデレク•ガイ氏も2024/11/26のX(旧ツイッター)で売却が完了した様子をつぶやいている。

(14) デレク•ガイ氏のXより
翻訳機能によればデレク氏の呟きは次のとおり…「今月でガーランドシャツ工場が競売に出されそのフィナーレを迎えた。建物と付属物や機械、ボタンに装飾、そして45万ヤードの生地、元々ボタンダウンシャツに使われていた高級なトーマスメイソンのオックスフォード地など全て売却されたらしい。」

【ガーランドシャツのストック】
ガーランドシャツカンパニーの工場跡地を新たに取得した会社の詳細は目下不明だが工場正面のガラス窓には「追って通知があるまで閉鎖」の告知が貼られ敷地の駐車場は空のままだという。取材目的で責任者にメールしても返信はなくウェブサイトにアクセスしてもエラーメッセージが表示されていたようだ。

(15) トーマスメイソンの生地
ここからは生産中止のガーランドシャツがそのままデッドものになることもあり得るのでRoom Style Storeで扱っているシャツを改めて紹介しようと思う。まずはブルックスブラザーズ創業二百周年を祝ってリリースされたボタンダウンシャツ。トーマスメイソンに昔のスワッチから生地を復刻させてシャツに仕上げた贅沢なものだ。

(16) シャギーツイルのシャツ
左はブルックス傘下時代で右が新生ガーランドのチェックシャツ。秋冬用に起毛感のあるシャギーツイル地を使用している。再建を担ったガーランドアパレルグループはガーランドシャツカンパニーの親会社、巨大な工場ではシャツ以外にもパンツ類やスーツ、軍もの衣料まで縫製していたらしい。

(17) スポーツシャツ
ブルックスブラザーズ傘下時代のスポーツシャツ。(4)のドレスシャツのようにMakersの文字は入らずEst1818の創業年が入る。とはいえまぎれもなく自社工場製のシャツ、それも最終期に近いものと言える。一番細身のミラノフィットは日本人向きだがアメリカ本国はリージェント(左下)やレギュラーが売れ筋だったようだ。

(18) ミラノフィット
ミラノフィットを平場に置いてみた。両脇の幅がそのまま下まで続くイメージといえばよいだろうか。胸囲より腹囲が大きいと着るのに難儀するシャツだ。スポーツシャツゆえサイズはS•M•L展開、一番すっきりとしたSサイズを選ぶと首回りもアームホールもかなりタイト。かといってMサイズでは緩すぎる。

(19) リージェントフィット
こちらは同じSサイズながらリージェントフィット。アームホール下からシャツの裾に向かってフレアしている。おかげでウェストはゆったりとしている。その心地よさに慣れてリージェントばかり着ると体型もリージェント向きになる。敢えてミラノフィットをメインで着つつ時々リージェントが体型維持の秘訣か。

(20) 自社工場時代
ユーズドの自社工場製シャツ。シャツ生地とタイの柄合わせも双方の工場を所有すればこそ。しかも中国製とはいえコートにまでネクタイの共布を使うなど実に格好良い。90年代に味気ない筆記体ロゴに変えた英資本時代から攻めの姿勢でブルックスを変えたクラウディオ•デル•ヴェッキオ時代のブルックスが個人的には今も好きだ。

ガーランドシャツカンパニーの再閉鎖は「ブルックスブラザーズが長い間工場を所有しすぎたことや工場の維持管理・システムの改善に投資しなかったこともあるが、直接の原因は製造コストを補うのに十分な注文が入らなかったことで工員の一時帰休を余儀なくされ最終的に閉鎖に追い込まれたため」と報道されている。

また究極の原因として「メイドインUSA」への関心欠如が工場経営を圧迫していたとマネージングパートナーのラグラント氏は率直に語っている。「多くの人がメイドインUSAの重要性を訴えますが実のところ殆どのアメリカ人は安価な製品を求めており、米国企業が生き残るのは容易ではありません。」と吐露していた。

再びメンズウェアライターデレク•ガイ氏の言葉で締めよう。「ガーランドシャツカンパニーの終焉は一つのことを証明した。ブルックスブラザーズ(同社も同じ問題を抱えていたが)の支援がなくては操業を続けられるだけの注文が得られなかったのだ。理由は単純で時給10〜14ドルのシャツはとても高価ということだ。」

By Jun@Room Style Store