2025/08/25 07:29

本格紳士靴に目覚めたのは1986年、パリのJMウエストンで買ったシグネチャーローファーだった。因みに初めて靴を誂えたのは1996年、こちらも同じパリのジョンロブということで英国靴好きを自認していたが実は違っていたようだ。ともあれ靴の魅力に取り憑かれて40年、今やシュークローゼットは満杯だ。
特に既成靴は新顔を迎える一方人手に渡っていくなど入れ替わりがある。幸い毎年メンテナンスに合わせて扉写真のように集靴写真を撮っているので顔ぶれが違うことにも気付く。2022年のローファー特集からは3足入れ替わっていた。インスタグラムを上手く活用すればマイシューズのアーカイブに活用できそうだ。
ということで今回はつま先を横切る切り返しのある一文字靴をテーマに文章でもアーカイブを補完しようと思う。
※扉写真は30足の一文字靴
(1) 黒靴コーナー

濃い色から淡い色へとサークル状に30足色並べるのは時間が掛かる。何しろ一足毎に幅が異なるので微調整しながら真円に近づけるのが大変なのだ。がっちり揃えたところでまずは最もダークな黒靴ゾーンから…ストレートチップからセミブローグまで様々、色で選べない分デザインを変えて何足も揃えていた。
(2) コージスズキ

フランスの名タンナー、デュプイの黒を纏ったセミブローグアデレイドはコージスズキ作。ロベルトウゴリーニに師事、フィレンツェから帰国して神戸で注文を取り始めた初期のものだ。客の注文をこなしつつ腕を上げていった頃の作品になる。2足目ということもありウェルトの目付けにもビスポークらしさが漂う。
(2) ジョージクレバリー

こちらはジョージクレバリー6足目のバルモラルオックスフォード。革を重ねるタイプではなくステッチで表現したイミテーションの一文字だ。ソールを1/2インチよりも薄い3/16インチに指定したせいか床からの突き上げがダイレクトに響く。歩く機会の多い日よりも一日中オフィスにいる日を選んで履いていた。
(3) チェルシー

フォーマル靴の王道。まだビスポーク靴に手を出す前に銀座のロイドフットウェアで買ったエドワードグリーン製マスターロイドになる。海外駐在に合わせてモーニングやタキシードに合わせていた。毎年出番があったが幸か不幸か最近は出番なし。ソールの刻印は筆記体だが旧グリーン末期の手書きサイズが懐かしい。
(4) ディプロマット

チャーチスの定番ディプロマット。黒靴のハイシャインでも登場している。1965年に大塚製靴が輸入販売を始めたが当時サラリーマンの月給の数か月分という超高級靴だったという。チャーチスは専らロンドンかニューヨークで入手していたが大塚製靴が2008年に取扱いをやめる際は靴好きの間で話題となった。
(5) グリーン対チャーチス

チャーチスとエドワードグリーンを並べてみた写真。どちらも旧が付く昔の製造、セミスクェアトゥのチャーチに対するエッグトゥのグリーン、つま先の形状は違えど内羽根の長さや靴紐の位置など細かな寸法はほとんど変わらないのが不思議だ。黄金比率だろうか…きっとクロケットジョーンズを隣に並べても変わらないのでは…と思う。
(6) 茶靴コーナー①

ここからは茶靴ゾーン。ビスポーク靴と既成靴入り乱れて並んでいる。昔は「靴をビスポークしているのに今さら既成靴を買うなんて…」と疑問を呈されたものだが最近は分け隔てなく愛好する靴好きが増えたのが嬉しい。個人に合わせる誂え靴も奥深いが万人に合わせる既成靴のノウハウも大したものだ。
(7) セイムール

既成靴で一番のお気に入りかもしれないジョンロブパリのセイムール。とうの昔に型落ちしている。シャンボード(後のハーリン)やローファーのアシュリーといった手縫い靴の証「スキンステッチ」系の靴は全滅状態だ。ライバルのエドワードグリーンがドーバーを作り続けているのに対して高級化に腐心している感がある。
(8) カドガン

写真はジョンロブパリのセイムールと共にセミブローグの傑作エドワードグリーンのカドガン。1991年製、ジョンロブパリによって工場が買収される前の旧エドワードグリーンらしい鞣し香が靴底から仄かに漂う。1995年に工場を手放したエドワードグリーンは一時品質を落としたがトップドロウアーで見事復活を果たした。
(9) ロブ対グリーン

ジョンロブパリ(ロブパリ)対エドワードグリーン(エドグリ)。シューレースが下に行くに連れて広がるフレアータイプのロブパリとストレートなエドグリ。内羽根がコンパクトなロブパリと長めのエドグリ、細かく見ると違いがあるものの両者は同じ工場で作られたことになる。セミブローグ好きとしては甲乙つけ難い。
(10) オールデン

新参者のオールデン外羽根セミブローグ。オーソペディック志向のモディファイドラストは靴が「く」の字に曲がっている。一見不恰好と思われがちだが巧みなデザインでカバーしているのは流石。靴の外側に大きく傾斜するアッパーや抉れた土踏まず、瓢箪型のシェイプなど他の靴とは一線を画す外観が特徴だ。
(11) クロケット&ジョーンズ

写真はベーカー社のロシアンカーフを用いたクロケットジョーンズのピーブルズ。こちらもステッチだけのイミテーションキャップトゥになる。沈没船から引き上げた幻の革の復活をエルメスから依頼されたベーカー社が開発した革を用いている。エルメス御用達と聞くだけで何となくいい革だと思えるから不思議だ。
(12) オールデン対クロケット

クロケットジョーンズはドレスシューズも上手いが無骨なカントリーシューズも得意なメーカー、豊富なデザインなどオールデンもよく似た感じだ。試しにオールデンとクロケットジョーンズのツーショットを撮ってみた。なるほど厚みを抑えた丸いつま先やコバの張った外観などそっくりに見える。
(13) レアマテリアル

お次はビスポークコーナーから。透き通るようなルビーレッドのワニ革はアメリカンアリゲーターをイタリアで鞣したもの。その奥に見えるのが元祖ロシアンレインディア。当時は100ポンドのアップチャージだったが今は軽くその10倍以上に跳ね上がっているだろう。しかも革の在庫が殆どない状態だとか。
(14) ロシアンレインディア

最近はロシアンカーフと呼ばれているがオーダー当時はロシアンレインディア(トナカイ)と言われていた。吊り込み時の裂けを防ぐためにつま先をわざわざラウンドでオーダーした一足だ。復刻を目指したベーカー社のロシアンカーフもホーウィン社のハッチグレインも肉厚過ぎるせいか本物と履き心地が違う。
(15) アリゲーター

こちらがアメリカンアリゲーターのキャップトゥアデレード。ジョージクレバリーでワニ革の靴を注文し始めるとトランクショウに行く度に「10分間のタイムセール」とオファーが入る。思わず笑いながらオーダーを繰り返すうちに気が付くと10足に達していた。思い返せばこの頃が一番楽しい時期だったかもしれない。
(16) レアな一文字

同じ木型から出来たとは思えないクレバリーの二足。つま先の形状や靴の全長、コバの張り具合も違う。左右のアイレットも下に行くほど広がるフレアータイプのアデレードに対してロシアンレインディアの方は同じ間隔で下まで続いていた。毎回出来の振れ幅が大きいのがクレバリーの特徴だった。
(17) 起毛素材

写真は起毛素材の一文字靴コーナー。一番のお気に入りが真ん中のクロケットジョーンズ製タバコスエードのセミブローグだ。日本初上陸時のハケット銀座店長井上さんの足元はいつもクロケット製(ハケットネームだが)タバコスエードのチャッカブーツ。それがとても格好良かったことを今も鮮明に覚えている。
(18) バックスキン

珍しい素材といえば写真のバックスキン。牡鹿の皮革銀面(表側)をやすりなどで起毛させたもので仔牛を起毛させたカーフスエードよりケタ違いに柔らかい。一度履くと病みつきになるはずだ。因みに牡鹿が雄鹿になるとスタグスエードとこれまた名前が変わる。これは更に超レアな起毛素材、もはやどこにも在庫はないだろう。
(19) ミルクスエード

オールデンのミルクスエードと呼ばれるオフホワイトの起毛靴。ハンプトンラストは甲が低いのが特徴、自分のような甲高の足では内羽根がガーッと開きがちなラストだ。写真はオールデンが唯一自社ネームを出さずに受注生産していたブルックスブラザーズネームのセミブローグ…アメリカ靴のヒストリーには欠かせないコラボだ。
(20) 集靴写真

インスタに投稿した後、最も閲覧された一文字靴の集合写真。閲覧数は二万四千を超えいいねも700オーバーとインパクトのあるポストになっているようだ。フォーマルな黒のストレートチップから装飾的な明茶のセミブローグまで最もバランスが取れていると言われる一文字の靴…単調になりがちなつま先に明確なアクセントを与えている。
ところで靴のスタイル別人気度をAIに聞くと①オックスフォード②ダービー③ローファー④ストラップシューズ⑤ブーツとのことだ。更に意地悪な質問として「オックスフォードとダービー、靴のスタイルとしてはどっちがよりポピュラーか」…と聞いたところAIは「それぞれ異なる使用例があるためどちらとは言えない」と回答してきた。
しからば人気ナンバーワンのオックスフォードタイプの中では今回の「ストレートキャップと鳥が翼を広げたようなウィングキャップではどちらが買いか?」とAIに質問、密かに「ストレートキャップ」に軍配が上がると期待したがまたもやAIは冷静に「履く機会やデザイン或いは合わせる服で異なる為どちらともいえない」と返してきた。
ならば近いうちにウィングキャップトゥの靴を特集しようと思う。
By Jun@Room Style Store