2025/09/07 00:55

北海道バイク旅も上陸して三日目に突入、朝から雨のぱらつく天気だがそれでも走るのを躊躇うほど大雨にならないので助かる。今日の予定は宿泊地遠軽を出発して途中、北海道遺産を見学した後は一路美深方面に向かうのみ。高速を使うと約2時間半。宿のチェックイン時刻よりもかなり早めに着きそうだ。
目的地の美深町はアイヌ語の「ピウカ」が由来、石の多い場所を意味するとか。開拓に当たって石が多くてさぞ苦労したのでは…と想像してしまう。街の西側を流れる天塩川は「自由蛇行」を繰り返し自然のままの景観が広がる。一方東側の仁宇布には名瀑があり美深は当て字に相応しい美しいまちのようだ。
そこで今回は美深を中心に鉄道名所を訪ねた様子を紹介しようと思う。
※扉写真は復活した駅そば
(1) 丸瀬布森林公園

遠軽を出て途中「丸瀬布森林公園憩いの森」を訪問。ここはかつて国が運営・管理していた武利意森林鉄道があった場所だ。1928年の開業から1962年の廃止まで最盛期には総延長80㌖も線路が敷かれたとのこと。当時の機関車雨宮製作所21号機は解体を免れ修復の後1980年から動態保存運転が行われている。
(2) 季節限定運転

春から秋の土日、夏休みは毎日始発の10時から最終の16時30分まで30分毎に訪問客や宿泊客を乗せて公園内の路線を運行、人気を博しているという。全国で唯一残る森林鉄道SLとして北海道遺産となっている。運営母体は遠軽町、1980年以来45年間継続している取組には心から敬意を表したい。
(3) 美深駅へ到着

北海道遺産の雨宮21号を見た後は宿泊地のびふか温泉に移動。バイクと荷物を預け市営バスで美深駅へ向かった。北海道では既に鉄道駅が廃止された市町村が沢山ある。今訪れなければ次はないかもしれない。美深駅はレンガ造りを模した立派な駅舎。宗谷本線では珍しい有人駅だ。かつて存在した美幸線の名残りが鐘に命名されている。
(4) 特急列車の発車

美深駅を出発する宗谷本線の特急「宗谷」を見送る。車内は夏休みとあって日本最北端「稚内駅」を目指す旅行客で賑わっていた。因みにこのブログを書いている9月6日現在宗谷本線は美深の先、幌延~稚内間が運休中。一瞬このまま廃線かと不安がよぎったが9月10日の始発から運転再開とのこと…一安心した。
(5) 美幸線の歴史

駅の鐘にも命名されていた美幸(びこう)線の年表。1964年、ここ「美深」から「仁宇布」まで21.2㎞が開通。美深の美と北見枝幸(きたみえさし)の幸を取って美幸線と名付けた。最終的には北見枝幸まで延伸を見込んでの命名だったが時代の趨勢には逆らえず国鉄民営化より前の1985年に廃線、僅か21年と短命だった。
(6) 予定されていた線路

1970年代の時刻表によると美深から終点の仁宇布までは途中東美深・辺渓の二駅のみ。典型的な盲腸線ゆえ乗客数の増加は期待できず開業当初から日本一の赤城路線だったのも当然か…。写真の赤い矢印が計画線、途中に北見大曲・上徳志別・志美宇丹・歌登・下幌別・南枝幸の駅が計画されていた。
(7) 仁宇布駅の思い出

美幸線と終着仁宇布駅に関する資料展示。1985年に廃線となった美幸線の廃線を利用して仁宇布駅から約5㌖にわたりエンジン付きトロッコを運行する「トロッコ王国」も貴重な鉄道遺産の一つだ。トロッコ体験料は大人1800円(一人だと2000円)。普通免許が必要だそうな。いつか訪れてみたいものだ。
(8) レンガ倉庫

美深駅はレンガ造り風だったが駅の周りには本物のレンガ倉庫が並んでいる。美深の南、名寄市はレンガに適した赤粘土が産出されており明治から昭和初期まで二つのレンガ工場があったとか。レンガ造りが北海道に多いのもそんな背景があるのだろう。美深駅の貨物用ホーム跡地に隣接していたので貯蔵庫だったに違いない。
(9) 美深駅前でランチ

こちらも現存するレンガ倉庫を改造したクラフトビール工場軒レストラン。事前にチェックしてた店だったが予想以上に素敵な店構えに期待も高まる。マイボトル(グラウラーというそうな)を持参すればビールのテイクアウトも可能とのこと。レストランに入ると奥に見えるビール醸造所が美深白樺ブルワリーだ。
(10) クラフトビール

毎日その日に飲めるビールが変わるようでこの日は1〜6番までのビールが用意されていた。全部味わいたいビール好きには好きなビールを110㍉リットルグラスで三重類または四種類選べるテイスティングセットもある。三種類を二回頼めば全部味わえるがそれだけで満腹になりそうなので三重類を選んだ。
(11) お試しセット

こちらが届いた三種類のテイスティングセット。因みに2番はIPA、4番は町の名を冠したびふかラガー、5番がアンバーエール。工場出来立てのビールを美味しく飲めるよう適温で提供してくれるので喉越しも爽やか、宿にバイクを置いてわざわざ市バスに揺られて町まで来て良かったと思う瞬間だ。
(12) フードメニュー

こちらがフードメニュー。まずはおすすめメニューから店の名を冠したBSBバーガーをチョイス。ついでにおつまみコーナーから美深産チョウザメのフィッシュ&チップスのハーフをオーダーした。かつて北海道の川で獲れたが絶滅したチョウザメを美深では養殖しているという。これぞ美深グルメだ。
(13) BSBバーガー

食べ応えのある大きなバンズに負けないパティ。北海道らしく羊肉を使用している。羊肉の脂肪は融点が低いため口の中で溶ける食感を楽しめるそうだ。特にハンバーグにするとジューシーさが際立つとのこと…羊肉好きには勿論ハンバーガー好きにとっても他の肉では味わえない特別な経験が待っているとのこと。
(14) びふか温泉

ランチ後は再び市営バスに乗ってびふか温泉に戻りチェックイン。予め預けた荷物は既に部屋に運ばれてくれたようだ。部屋の鍵を貰う間にも温泉を利用する日帰り客が受付を待っていた。一帯は「びふかアイランド」と呼ばれアクティビティやオートキャンプもある。気軽に温泉に入れる施設は利用客にとっても有難いのだろう。
(15) チョウザメ館

夕食前に隣接するびふかアイランド内のチョウザメ館を訪問。なんとランチで味わったチョウザメのフィッシュフライはここで飼育されていたものらしい。見学は無料、かつて美深町を流れる天塩川にも遡上していたチョウザメに着目し、キャビアの収穫を目指した特産品化事業を推進しているそうだ。
(16) チョウザメの水槽

卵から孵化させ、年齢が大きくなると水槽を変えながら10年飼育してようやくキャビアが獲れるらしく流石は「黒いダイヤ」と感心する。こちらはまだ若い部類、確かにサメと似ているがサメは軟骨魚類なのに対してチョウザメはコイやタイと同じ硬骨魚類なのだそう。なるほどエラぶたがあるのが見て分かる。
(17) 温泉の湯

(18) 朝食

バイクに乗っていると身体をほとんど動かさないのでカロリーオーバーになりがち、びふか温泉に泊まった翌朝はヨーグルトとフルーツにシリアル、コーヒーとハスカップジュースでヘルシーに。最初の目的地は1時間ほどの距離にある音威子府駅。午前11時前に着けば良いのでのんびり出発した。
(16) 音威子府駅へ

時折雨のぱらつく道を慎重に運転しながら10時半に音威子府駅に到着、早速入場券を買って駅構内に入る。まもなく特急「宗谷」が入線する時刻だ。音威子府は昨日訪れた美深の次の特急列車停車駅、ここも有人駅だ。去年の11月に訪れた時よりものぼりが出ていて活気があるように見えるのは夏だからか…。
(17) 稚内行特急の到着

音威子府駅に到着した特急「宗谷」。昨日美深駅で見た宗谷はハマナス色だったが今日はラベンダーブルー、どうやら二色あるようだ。乗客の乗り降りは美深よりも多い。日本一人口の少ない音威子府村だが日本で唯一の村立高校やアグリビジネス、林業への挑戦など過疎に負けない施策で村を活気付けている。
(18) 賑わう待合室

写真を撮り終えて駅の待合室に戻ると札幌駅のように賑わっている。皆さん目当ては数年前に閉店、今年限定で復活した音威子府駅の名物「駅そば」のようだ。金土日の営業日は全国各地から人が集まっているとか。開店は11時、特急列車の発車が10時41分だったから開店前から大混雑。自分も食券を買って開店を待つ。
(19) 行列のできる駅そば

そばを待つ人の話を聞くと道外から来たバイクライダーは「金土日しか営業していないのでそれに合わせてツーリングの予定を組んだ」と話していた。「一杯じゃ少ないので二杯分買いました」と語るのは体験済みの客。音威子府駅前で商いをしている店主は期間限定から通常営業を目指していると語っていた。
(20) メニュー

こちらがメニュー。かけ蕎麦一杯700円は「富士そば」を知る都会の客には高いと感じる。天ぷらそばも昔と同じかき揚げを再現したらしいが900円、富士そばの天ぷら蕎麦600円の五割増になる。値段が高くとも多くの客が来て注文するのは「期間限定」だからと言えよう。通常営業になってからが勝負といったところか。
(21) レジェンド

出来上がった天ぷらレジェンド。汁に溶けるかき揚げが旨いのだそうな。音威子府そば最大の特徴「黒いそば」が見ただけでも分かる。これが人気の秘訣、昔日本一うまいとNHKで放送されて以来評判だった「常盤軒」だが2021年に店主が亡くなると閉店、翌2022年にはそばを提供してきた畠山製麺も廃業して一時は幻となった。
(22) 挽きぐるみの蕎麦

蕎麦の色が黒いのは蕎麦種の外側にある甘皮も一緒に挽いて蕎麦に打つためだとか。「挽きぐるみ」と呼ばれる製法だそうな。通常のそばよりも強い風味と太くて歯応えのある独特の食感が特徴とのこと。確かにそばが太い。口に入れるともっちりとした歯応えがある。汁も利尻こんぶを使った濃い目でパンチがある。
(23) 期間限定から通常営業へ

独特の黒そばは東京でも味わえるらしいが音威子府そばは音威子府駅で食べてこそ思い出に残る。美味しいピッツァマルゲリータが色々あってもナポリにある発祥の店で食べたオリジナルが特別なのと同じだ。村のチャレンジショップ制度を活用しての期間限定営業は9月21日が最終日、その後継続するかどうかアナウンスがありそうだ。
今回訪れた美深町と音威子府村、どちらも共通の課題は人口減少だ。昨年10月の総務省発表によれば人口減少率は全国平均の0.48%に対して北海道は0.93%とほぼ倍の割合。2045年までの予想でも日本全体の減少率が16.3%なのに対して北海道は25.6%とより早いペースでの減少が予想されている。
AIによれば「1970年代から北海道で始まった鉄道の合理化は集中的な人口流出を招いた要因の一つ」と指摘している。遠軽も美深も音威子府も路線が複数乗り入れる接続駅であり、鉄道の町として多くの職員が働いていた。鉄道廃止による利便性の低下や地域経済の衰退が人口流出に与えた影響は少なくないだろう。
音威子府村の人口は今年7月末で605人、1955年の4185人をピークに1/7まで減少している。平成の大合併と謳われた2010年代に名寄市を含めた6市町村合併が検討されたが「面積が大きすぎる」と住民理解が得られずに協議会は解散。次に美深町と中川町を含めた3町村協議を行ったがこれも断念した。
目下孤軍奮闘中の音威子府村、今度来る時は村に泊まって名物の黒そばを一杯と言わず心ゆくまで堪能してみるのも悪くない。そんな応援の仕方もありだと思う。
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