馴染みの靴修理屋 | Room Style Store

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2022/01/23 18:59


舶来靴が身近になった80年代…グッドイヤーの本格靴をオールソールする靴修理屋は身近に一軒もなかったが90年代に入ると渋谷にユニオンワークスがオープン。靴愛好家が待ち望んでいた本格靴修理店の誕生だった。その後腕の立つ靴修理店が次々と誕生、今では修理内容によって店を選べるほどの充実ぶりに時の流れを感じる。直しながら物を大切に使うことは今やトレンドでもある。

ただ靴修理には苦い思い出もある。海外で作ったジョンロブビスポーク靴のつま先修理を日本のジョンロブに出したら「つま先の出し縫いの上からミシンで縫う」という悲惨な修理をされて愕然とした。今なら綺麗に直せる店もたくさんあるだろうに…靴のクオリティに対して靴修理の技術が追いつかなかった時代の悲しい物語だ。革底を長持ちさせるラバーの半貼りに頼ったのも無理はない。

あれから20年、オールソールもリウェルトも当たり前の今、中底交換まで請け負う国産靴メーカーもある。そこで今回は馴染みの靴修理店の仕事ぶりを交えながら気が付いたことをまとめてみたい。


(1) 馴染みの靴修理屋
90年代後半からシューリペア店が次々とオープン、銀座や新宿に出向いては修理をお願いしていたが毎回靴を持って行くのもそれなりに大変だ。地元にも靴修理店があればと探し当てたのがトーンアームという名の店だった。自宅から自転車でも歩いてでも(結構歩くが)行ける気軽さ。特に昨今のコロナ禍にあっては都心に出向くのも気が引ける。そんな時腕の立つ靴修理店が近くにあるのは貴重だ。


(2) 腕の立つ店主
夫婦で店を切り盛りするトーンアームが吉祥寺にオープンしたのはは2012年。店名はレコード針が付いているアームを指すのだそうな。「靴修理の腕はしっかりしています…」という意味だろうか、安心して修理を任せたくなる屋号だ。手持ちの靴を長く履きたいという客の願いに応えて10年、節目を迎えて仕事は順調なようで修理を依頼する間にも次の客がやってくる。


(3) 製靴兼務
靴屋と書いたのは製靴業も営む靴修理店だからだ。どちらがメインという事はなく至って自然に接客する店主の雰囲気が良い。綺麗に並んだ注文靴のサンプルはレディスから始めたというがメンズも充実している。こうした靴作りの技術に裏打ちされた修理は的確でグッドイヤーは勿論ブレイクやハンドウェルトのビスポーク靴など靴の作りやデザインに合わせた修理方法を提言してくれる。


(4)  修理に出した靴①
63足を超えたビスポーク靴の原点となった第1足目。つま先の出し縫いの乱れは前述した日本のロブブティックに出した際無残にウェルトの上からミシンがけをされてウィールを潰された跡。当時キャンディという会社がロブパリの窓口だったがその後ジョンロブジャパンに変わっている。その時直したつま先が再びすり減ったのでトーンアームに依頼。革を盛って整形後、プレートを打ってもらうことにした。

(5) すり減ったつま先
すり減ったつま先は綺麗に直されて戻ってきた。今回プレートでしっかり保護したので今後は交換するだけでOK。ただし「レザーソールが減っているのでソール専用クリームなどで乾燥を防ぐと良い」とのこと。コバを見ながら「これをハンドでオールソールする技術は日本じゃ難しそうですね」とも言っていた。もし最初の姿に戻すなら木型のあるロブパリに依頼するしかないだろう。


(6) 左足
他では見たことのない繊維の密な底材のジョンロブパリ。硬さも相当なもので一度修理したつま先も利き足の左側は既にウェルトぎりぎりまですり減っている。革を盛って整形後プレートを装着、コバを整えて色入れすると靴が新品のように輝きを増す。この瞬間が一番嬉しくて直ぐにでも履きたいところだが人流抑制のご時世、出歩いたり人と会う機会を減らしているので試すのは暫くお預けだ。


(7) 右足
右足もよく見るとかなり減っている。それにロブパリの靴はトゥスプリングが少ないフラットなデザインが多いせいかつま先部分に負担がかかりやすく結構な反りが出ている。もっともアウトソールが反ることは履き手の癖が付いてきた証拠、下ろしたての違和感がなくなり歩きやすくなってきたことが実感できる頃合いでもある。やはり革靴は履いて馴染ませるもののようだ。


(8) 修理済を履く①
修理を終えた靴を履いてみる。綺麗なつま先は無条件に足元をアップグレードする。よそよそしさのある新品の靴を履き下ろすより断然格好良い。普段履き手は写真のような角度から靴を見るのは不可能だが、改めて写真に撮って見るとよく分かる。どこにいても「足元を見られる」ことはないだろう。人と会う機会の多い職種ならば仕事用の黒靴にこそお薦めしたい。


(9) 修理済を履く②
こちらは修理後の靴を横から見たところ。つま先の減りがなく360°綺麗に整っていると額縁効果ではないが靴がキュッと締まって見える。つま先をほんの少し手入れするだけで足元や装い全体に与える効果は殊の外大きい。後はパンツのクリースを忘れずソックスに気を配れば足元のお洒落は完成、好きなトップスで装いを楽しめる。
Pants : Paul Stuart by G.T.A
Socks : Pantherella


(10) 修理に出した靴②
こちらはクレバリー初のオーダー靴。ブログ記事エラスティックシューズで紹介した写真だ。奇しくも今回は初ビスポークと次の2足目を修理に出したことになる。なにせ初オーダーから25年が経過、ここで古いビスポーク靴から順に靴の修理を定期的に出し始めたところだ。店主も靴職人として興味を持ってくれるので素材や細かな仕様などオーダー時のことをついつい話し込んでしまう。


(11) すり減ったつま先
初黒ビスポーク靴も今回しっかり修理をしておけば、冠婚葬祭以外はこの1足で事足りるはず。余談だがこの靴は以前クレバリーに持ち込んでオールソールをしている。その際にプレートで…と頼まなかったので釘打ち仕様で戻ってきた。実はつま先の釘数が多いと釘穴によって繊維が切れ革が弱くなるようだ。そんなこともあって最近は専らトゥスチールにしている。

(12) 穴飾りに色入れする
写真を撮ると目立つのが穴飾りの白い部分。綿棒に黒クリームを塗って穴に差し込みぐるぐる回す。そのあと反対側の綺麗な綿棒で拭き取る。これだけでOK…もっとも遠くから見ると下の写真のようにどうしたって穴は白く見えるもの、それほど気にすることもないようだ。昔「穴飾りの大穴小穴すべてにつま楊枝を入れて綺麗に掃除する」という話を聞いたが効果のほどは確かめていない…。


(13) 修理済を履く③
つま先修理前と修理後の比較。レンズの角度が違うものの上の写真では薄くなったつま先が靴を貧弱に見せる。一方で直しを終えた靴は革質の良さも相まって一気に足元を格上げしてくれる。プレートは履き心地が変わるので敬遠する人もいるが自分は「何もなし、釘打ち、プレート」と3種類試した結果、靴を綺麗に保つにはプレート装着が最適解だという結論に至った。

(14) 修理済を履く④
修理を終えた靴を横から見た図。つま先が整ったおかげで横から見ても手入れの行き届いた靴という雰囲気が漂う。それにしてもカールフロイデンベルグの革の見事な底光り…ハリがあって柔らくしかも皺になりにくい革は他にない。靴好きを魅了する幻の素材に相応しい。25年を迎えても簡単な手入れだけで新品の時と同じアッパーが戻ってくる。


(15) スエード靴の修理
こちらは今シーズンまとめて出した秋冬用スエード靴の修理後…。ソールにラバーを貼ってプレートの境界から捲れないよう釘打ち処理を施したもの。レザーのオールソール、それもオリジナルのジョンロブパリと同様の仕上げを望む人には邪道だろうが、拘りのない自分にはこれが一番。もちろん靴修理店では純正同様の仕上げも可能、顧客に合わせた修理メニューを用意している。

(16) 修理済の靴を履く⑤
綺麗になったつま先を見ると嬉しくてつい足先を見てしまう…新品の綺麗な化粧ソールにラバーを貼ったりプレートを埋めたりするのは躊躇するもの。もちろん最初は何もしないである程度履いたら修理に出すという手もある。その場合はつま先の減りに対して革を盛る追加作業が生ずる。やはり一番良いのは買った瞬間にすぐ直しに出すことだろう。


(17) 修理済の靴を履く⑥
長く履けるグッドイヤーウェルトの靴もラバーを貼らなければ2〜3年でソール交換、それを2〜3回繰り返すとリウェルトして再びソール交換を2〜3回、リウェルトも2〜3回が限度でアッパーや中底が根を上げてしまえばそこが靴の寿命だ。一方最初にラバーを貼れば靴への負担は最小限、靴の寿命も伸びるしメンテナンス費用が大きく異なる。靴修理屋がハーフラバーを薦めるのには訳がある。


(18) 旧エドワードグリーンの修理
こちらは以前靴の見え方でも紹介した修理事例。昔貼ったラバーが生きてるならビンテージスチールの装着だけで済む。31年ものの旧グリーン、カドガンだが恐らくソールより先に柔らかなアッパーが限度を迎えそうだ。形あるものはいつか終わりを迎えるが、履けなくなるまで付き合うのも立派なお洒落道。今まで断捨離したのは32年目でアッパーの裂けたグレンソン1足のみだ。



(19) 修理済の靴を履く⑦
綺麗なつま先は見ていて気持ちのいいもの。足が小さくなったせいと中底が沈みきったことで羽根が良い具合に閉じるようになった。ロンドンで購入した際は甲高の自分と旧グリーンの202ラストは相性が良くないと感じたが時が経つとある時点で急に持ち主に寄り添うのが英国製品の魅力。日本の靴メーカーのように中底交換は出来ないが舶来靴には履き手を引きつける魅力がある。


(20) 修理済の靴を履く⑧
写真の靴の修理代金はハーフラバーが大体3500円、トゥスチール装着が当て革込みで4500円前後、新品の場合はつま先の減りに合わせて革を盛る必要がないので工賃はもう少し安くなる。一度この状態に直せばそれ以降の修理はヒール交換>トゥスチール交換>ラバー交換の頻度か…。オールソールの必要がなくなるのでウェルト周辺は買った時の面影をいつまでも保てる。


靴修理の草分け的存在ミスターミニットも修理のバラエティが広がり、靴の修理専門店もトーンアームのような独立店舗はもとより系列店がデパートの靴売り場に進出するなど靴の販売と修理が隣接した環境も整ってきている。売りっぱなしではない姿勢に共感を覚えて修理に出すうちに馴染みの店をもった革靴愛好家も多いだろう。

反面クールビズやコロナ禍の影響、サスティナブルな環境と押し寄せる大波に革靴の需要は減り続けている。革靴の修理だけでは先細りしかねないと最近はスニーカーの再生に長けたリペアショップも現れてきた。気に入ったコンバースを捨てられないという客の願いに応えようと腕を磨く修理職人の姿勢には頭の下がる思いだ。

新しい靴を買ったり注文したりする未来への期待と古い靴を修理して履く過去への郷愁、どちらも今と繋がっているだけあって断ちがたい。きっとこれからも新しい靴に出会ったり靴を修理するに違いない。

By Jun@ Room Style Store