恒例の靴磨き(黒靴編) | Room Style Store

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2022/05/23 06:36


扉写真は当ブログ2021年6月7日掲載の過去ログ「黒靴の思い出」で登場した黒靴群。出番の殆どないまま1年近くが経ち今年も定例メンテナンスの時期がきた。これから湿度の高い梅雨と暑い夏を迎える前にまずはカビが生えないよう日陰干し。紫外線を当てた後、室内に取り込んだところを撮影したものだ。

因みに1年前と顔ぶれは全く変わらず。ロンドンのジョンロブには完成した黒のタッセルスリッポンが受取を待っているが、恐らくそれが最後の黒靴だろう…何しろ履く機会が滅多にないのだから。キャビネットの中の黒靴にはうっすら埃がたまったり油分が抜けて革が乾燥気味だったりとあれこれ気になる。

そこで今回は靴を長く大切に履くのに欠かせないメンテナンスについて書いてみようと思う。


〜第一章 : 紐なし靴〜
まずは現役時代よく履いたサイドエラスティックの黒靴から手入れを始める。脱ぎ履きの多い日本の習慣にピッタリ、しかも紐がないので手入れもしやすい。スーツやジャケパンというと大抵この4足から選んでいた。まだまだ仕事で黒靴を履く職場環境の靴好きには是非お勧めしたいタイプだ。
(1)ESS(Elastic Sided Shoe)
ケア前の様子。埃焼けしたのかやや白っぽくなっている。まずは①乾拭き、古くなった綿のTシャツを適当な大きさに切ってストックしおくと役に立つ。次に②コバの根元や切り返し、ステッチ部分にブラシの毛をあてて汚れを搔き出すようにブラッシングする。ブログ用にケア前の③記録写真を撮っていよいよメンテ開始。

(2) 古い順に始める
オーダーの古い順からスタート始。靴の足数が増えても注文主はどれが古くてどれが新しいか順番は忘れないもの…。写真は最古参のクレバリー、使うのはコロニルの1909Supremeブラック。保革・栄養効果・補色性のある皮革用クリームはとても便利、何しろ昔のようにクリーム+ワックスの2段階ケアが1回で済む。

(3) 靴を見ればその人が分かる…
丁寧にケアされた靴はだれが見ても分かるし履き主の人となりも想像がつくというもの。特に靴の外側はつま先と並んで一番目立つ部分、コバとアッパーの間もしっかりケアしたい。布ではクリームが入り辛い時はコバ専用ブラシも使う。意外と忘れがちなエラスティック部分のカバー(革)にも手を入れること。

(4) クリーム塗布後
コロニルによると「塗布した表面が乾くのを待って(写真右側)からポリッシングクロスで乾拭き、更に馬毛ブラシでブラッシングする」とよいとのこと。靴磨き専門店に任せる人もいようが本来は自ら手入れするのが「大人の男の嗜み」。25年経ったカールフロイデンベルグの革は皺が寄り始めたがそれでも他の黒靴より凛としている。

(5) 手入れ後
コロニル1909Supremeの補色効果は中々のもの、漆黒の艶が戻ってケアのし甲斐を実感する。こうして自ら手入れをすることで自分では気付かぬうちについた小さな傷や底の減り具合を確認できる。それにしてもベルルッティのオルガ女史の「靴を磨きなさい、そして自分を磨きなさい」はつくづく名言だと思う…。

(5) 小休止
4足まとめてケア終了。ここまで小一時間の作業。最初と同じように並べて(1)の写真と比較…黒靴らしい輝きとフォーマルな雰囲気が戻っている。以前は「つま先の鏡面磨きは通気性が悪くなる」という話も聞いたが、どうも根拠はないようだ。寧ろつま先保護には光らせた方が良いという意見も多い。

【参考資料】
① 履いてみる(その1)
無彩色の黒靴は同じ無彩色の灰色と好相性。ライトグレーフランネルのスーツに黒靴の組み合わせなんて最高に格好いいと思う。写真のパンツはスーツの組下。最近トラウザーズの幅は長らく続いた美脚系スリムフィットから反対側に振れているようで昔懐かしワイドなシルエットのパンツが新鮮に思える。

② 履いてみる(その2)
こちらはネイビースーツの組下。やはり甲が殆ど隠れるワイドレッグのシルエットだ。ネイビースーツと黒靴の組み合わせは本来好きじゃないがロンドンにいると見慣れるせいか当たり前に感じる。昼時のジャーミンStを歩くとすれ違うビジネスマンは皆黒靴だ。好きか嫌いかではなく「暗黙の掟」が厳然とあるのだろう。


〜第二章 : 頻度の高い黒靴〜
手持ちの黒靴で履く機会の多いのが下の2足。夏場は厳しいが秋から〜春にかけては重宝する。デザインもフォーマル(寄り)とカジュアル(寄り)とバランスが取れている。もし昔に戻れたら黒靴のビスポークはサイドエラスティックとこの2足の合計3足で十分事足りるのに…と思ったりもする。
(6) 外羽根と内羽根
左のUチップはグレーヘリンボーンやブラックウォッチタータンと、右のパンチドキャップトゥはスーツやブレザーと合わせて良く履いたと思う。ただし手入れはサイドエラスティックより面倒、まずは紐を外さなくてはならない。しかも平紐(左)はも丸紐(右)より紐の外し方も通し方も面倒だ。

(7) タンの手入れ
靴紐を外したらまずは甲部分と内側のタンのケアから。年末の「すす払い」じゃないが普段手の入りにくい場所もこうして定期的にケアすることで靴も更に長持ちするというもの。特にアイレットのあたりは靴紐で擦れて小傷が付きやすい。補色クリームを塗って乾いたら拭くだけでも傷が目立たなくなる。

(8) ポリッシュ後のブラシがけ
乾拭きしたら次はブラッシング。100%ホースヘア(馬毛)を使ったブラシはそれなりの値段だが黒靴用、茶靴用、白靴(ホワイトバックスなど起毛革は必須)用と3本用意しておくと便利だ。因みに馬毛ブラシはサフィールだと3,850円するが写真の無名ドイツ製馬毛ブラシだと一つ1,540円とかなりリーズナブルだ。

(9) ブラッシングの効果
同じ右足(写真では左側)を(8)と(9)で見比べるとブラッシングの効果が良く分かると思う。表面の滑らかなスムースレザーでは違いが見えにくいがシボ革だと効果は歴然。最近はホーウィンのロシアンカーフやベーカーのロシアングレインなど凹凸のある革が人気、溝にクリームが残りやすい革には念入りなブラッシングが欠かせない。

(10) 皺部分の手入れ
こちらはパンチドキャップトゥのヴァンプ。履き皺はクラックが入りやすいので丁寧なケアが必要だ。ツリーを入れて革をピンと伸ばした状態にするもよし、裏から指で押して皺を伸ばして塗るもよし。乾いたら拭き取ってシボ革と同じようにブラッシングを欠かさないのがポイント。

(11) 磨き終わり
ケアが終了したら最後にもう一手間…貴金属磨きに使うセーム革でつま先を軽く拭くとあっという間に表面が輝いてくる。セーム革は洗って何度でも使えるので多少靴墨が付いても平気だしコスパも良い。サフィールからはセーム革の手袋型靴磨き用グローブが出ているがホームセンターや100円ショップで端切れを買えば十分だ。

【参考資料】
③ 履いてみる(その1)
少しアートな写真。白黒写真で無彩色の世界に一ヶ所色を加えるアプリは中々効果的で面白い。大柄で派手な赤が入ったチェックパンツに合わせるならビジーなフルブローグやセミブローグよりシンプルなプレーンキャップトゥがマッチする。控えめながらも穴飾りがあるおかげでフォーマル過ぎないのも良い。


④ 履いてみる(その2)
写真はローイングブレザーズの大柄パンツ(スーツの組下)と黒靴の組み合わせ。パンツの柄はキャンベルオブアーガイル。チェックの中に黒が織り込まれているので黒靴もすんなり溶け込む。有名どころではバーバリーのノバチェックもベージュに赤と黒と白が入っているので黒靴とよく合う。

〜第三章 : 内羽根の靴〜
黒靴磨きのラストは大所帯の内羽根靴、12足のうちまだ7足も残っているが気を取り直してまずは紐外しから。黒靴に限らずタンの片端がアッパーに縫い付けられている内羽根靴はまず①紐を外すのに一苦労、②タンにクリームを塗るのも一手間掛かり③紐を通すのも外す時以上に苦労する。
(12) 羽根の手入れ
クレバリーの中ではフォーマルに近いバルモラル。手間のかかる平紐を外したところ。赤丸部分はタンがアッパーに縫い付けられている箇所。メンテナンスの際は鬱陶しく思えるがこの一手間のおかげで履く時にタンがずれずに済んでいる。せっかく外したので擦れて白くなった羽根の角もクリームで補色する。

(13) ソールの厚み
バルモラルのソールはクレバリーでは一番薄い3/16inch(スリーシックスティーン)をリクエスト。1inch(25.4㎜)×3/16だから4.76㎜の厚みだがウェルトをのぞけばソールの厚みは実際4㎜くらい…写真からもアウトソールがかなり薄いのが分かると思う。注文時に3/16は歩く靴には向いていないと言ってたが確かに地面の凸凹がダイレクトに足に来る。

(14) 重さを測る
3/16のソールは靴の軽さが売り、持った瞬間実感する。元々どれも軽量なクレバリーだが何足か重さを測ってみたらこの靴が最軽量、両足0.8㎏(片足0.4㎏)はリーガル(片足0.6㎏)の3分の2しかない。確かクレバリーにはビスポーク用のクレープソールもあるから底を替えればスニーカー並みのパフォーマンスが期待できそうだ。

(15) スニーカーと比べる
ならばとレザースニーカーの雄NB576UKと重さ比べ。結果0.8㎏とまさかの引き分け、重さだけならクレバリーとスニーカーと互角ということになる。尤もNB自慢のソールC-CAPの先進性には敵うべくもなかろうが、ウェルトシューズ=重いというイメージを払拭する結果だ。「手袋のような履き心地」ならぬ「足袋のような軽さ」と言うべきか。

(16) 一番重い靴は?
反対に一番重い(であろう)靴は何だろうかと調べたら案の定ウェストンの677ハントダービーが横綱だった。両足1.5㎏(片足0.75㎏)と倍近い重さがある。つま先と踵の金属プレートや本革のダブルソールがヘビーウェイトの一因かもしれないが、リーガルによると思い靴は振り子の役割を果たすので長時間歩いても疲れにくいらしい。

(17) 親子穴の手入れ
こちらはサンクリスピン。パーツが重なるブローグ部分を見ると大穴の下に接着材の付いた底面が白く見えて気になる。綿棒にコロニル1909を少量付けて色入れを実行。穴に差し込んで綿棒を回せば黒く染まるが数が多いのでそれなりに大変だ。丁寧に塗っていくとあっという間に時間が過ぎていた。

(18) 見栄えの違い
穴飾りの色入れ前後を比較した写真。大穴の底に見える白い部分を黒くするだけで靴が精悍になる。つま先のメダリオンは大穴・小穴どちらも爪楊枝で古いワックスを取り出したが、こちらも効果があるようだ。さすがに全部の靴を手入れするには時間が足りないので続きは次回以降に…。

(19) 被せタイプのアデレイド
ついでに撮ってみた写真。こちらはミラノの注文靴屋メッシーナのアデレード。レースステイが竪琴のような形をしているアデレードは英国だと下からパーツを重ねるがイタリアでは逆に上からパーツを重ねる。写真はサドルオックスフォード同様上から被せたパーツの様子が良く分かる。

(20) 日英伊靴比べ
磨き終えた黒のセミブローグ。左からイタリアのメッシーナ、イギリスのフォスター&サン、日本のスピーゴラ。つま先の親子穴は大きめのスピーゴラ、中庸のフォスター、やや大きめのメッシーナといった感じか。レースステイの長さは三者ともに変わらないがスピーゴラはギンピングなしで仕上げている。

【参考資料】
⑤ 履いてみる(その1)
スピーゴラの2足目。きめの細かなアッパーはデュプイの黒革。当時のスピーゴラは小ぶりなヒールが特徴、今は作風もさらに進化しているようだ。2001年に神戸で初注文後、東京でトランクショウを開くようになった2005年に注文した靴だからもう18年も経つ。成長線や傷のない極上の革を使っているのが分かるだろう。

⑥履いてみる(その2)
こちらは東京からメールでオーダーしたサンクリスピンのアデレード。こちらもギンピングのないタイプだ。トゥデザインはアザミの花。サイドにもパーフォレーションが入るスコティッシュタイプだ。ウィングから延びるブローギングはどうしてもジョイント部分で皺が付いてしまう。


(21) シューケア完了
半日かけて終了した黒靴を並べて撮影。この後は再びキャビネットに並べることになるが今年はラニーニャ現象で高温・多雨との予想もある。気温が上がり湿度が高くなる6月はカビが増殖する季節。ケアした靴は栄養満点でカビの温床となりやすいので湿気の少ない屋根裏に保管することにした。

黒靴で検索すると「無彩色」というキーワードに出会う。赤や青のように色相・彩度・明度の三要素がある「有彩色」と違い「無彩色」は明度のみ存在する色で最も明るいのが白、中間が灰色、最も暗いのが黒になる。なるほどグレースーツに黒靴や白デニムに黒いローファーが合うのも当然、無彩色同士の組み合わせは鉄板という訳だ。

あとは同じ黒靴でもデザインが大いに関係するようだ。オールデン9901のようにゴツイ黒の外羽根プレーントゥならば穴開きデニムとの相性も良かろうがクレバリーやフォスターのようにシュッとウェストのくびれた紐靴だとデニムとは馴染みにくい。そもそも手持ちの黒靴の殆どがスーツやジャケパン用に誂えたものだからなおさらだ。

ということで出番の減った黒靴をどう履きこなすか…年に一度の一大メンテナンスと試行錯誤はまだまだ続きそうだ。

By Jun@Room Style Store